腎性貧血

内科学 第10版 「腎性貧血」の解説

腎性貧血(腎・尿路系の疾患の病態生理)

(4)腎性貧血(renal anemia)
定義・概念
 腎障害による腎臓での赤血球造血刺激ホルモン(エリスロポエチンEPO)の産生低下に起因する貧血である.赤血球寿命の短縮,造血細胞のEPO反応性低下,栄養障害,血液透析(HD)患者では,透析回路内残血なども原因となる(日本透析医学会,2008).ほかに明確な原因を特定できる貧血は除外する.赤血球造血刺激因子製剤(erythropoiesis stimulating agent:ESA)が治療の第一選択薬となる.
原因・病態
 腎機能正常者では貧血の進行に伴い血液中の酸素濃度が減少すると腎臓組織中の受容体がこれを感知し,EPO産生細胞からのEPOの産生・分泌が増加する.EPOは,赤芽球系前駆細胞(主としてcolony forming unit-erythroid:CFU-E)に作用して赤芽球系細胞のアポトーシスを抑制して造血を促す.腎機能障害者では組織酸素受容体の機能やEPO産生能が低下し,貧血の程度に相応したEPOが産生されず貧血に陥る.これらの障害は一般に慢性腎臓病(CKD)ステージ3以降に発症し,腎機能低下に伴い増悪する.糖尿病では非糖尿病患者より早期に発症し,進行も速い.
疫学
 CKDステージ3で約15%,ステージ4で40%,ステージ5で70%,透析患者(ステージ5D)ではおよそ85%が貧血を合併する.糖尿病性腎症による保存期CKD患者の貧血合併率は非糖尿病患者に比して1.2~2倍高い.
診断
 CKDステージ3以降の患者が,ほかの原因が除外できる貧血を呈する場合に腎性貧血を疑う.一般に正球性正色素性貧血を呈し,貧血の存在にもかかわらず網状赤血球の反応性増加を欠き,白血球,血小板数は正常域に保たれる.貧血に伴う血中EPO濃度の反応性増加も乏しく,診断的意義は高くはないが,ヘモグロビンHb)<10 g/dLの貧血で血中EPO濃度<50 mIU/mLであれば,腎性貧血を強く疑う.CKDステージ2で,特に糖尿病性腎症患者の腎性貧血の診断には,上記血中EPO濃度が有用である.
治療
 主因であるEPO欠乏に対し,ESAの投与を行うのが第一選択である.保存期CKD患者と腹膜透析患者では複数回の検査でHb 11 g/dL未満となった場合投与を考慮する(日本透析医学会,2008).使用可能なESAは遺伝子組み換えヒトEPO(rHuEPO),ダルボポエチンアルファ(NESP),エポエチンベータペゴル(MIRCERA)の3種で,rHuEPOでは1~2週に1回皮下投与,ほかの2剤では2~4週に1回,皮下,ないし静脈内投与を行う.目標Hbは11 g/dL程度とし,特に重篤な心血管系疾患の既往や合併がある患者では12 g/dLをこえたら減量・休薬する.血液透析患者ではHb 10 g/dL未満を投与開始基準とする.上記3種の薬剤が使用されるが,rHuEPOは週1~3回,NESPは1~2週に1回,MIRCERAは2~4週に1回,透析時に静脈内投与を行う.目標Hb値は10~11 g/dLLとし,12 g/dLをこえたら減量・休薬する.
 ESA投与に伴う造血亢進から鉄需要が増加し,機能的鉄欠乏をきたしやすく,鉄製剤投与を要することが多い.鉄欠乏の診断基準はトランスフェリン飽和率(TSAT:Fe/TIBC)20%未満,かつ血清フェリチン100 ng/mL未満とされる.一般に経口鉄剤が選択されるが,消化管での吸収が不十分な場合,特に血液透析患者では静注鉄剤が利用される.ESAによる貧血の改善は多岐の臨床効果をもたらすが(表11-1-3),適切な量のESA投与によっても貧血の改善しないESA低反応例,特に高いHbを目標として大量のESAを使用した患者で心血管系合併症の増加や生命予後の悪化が報告されている(Singhら,2006).ESA低反応の原因(表11-1-4)を精査する必要がある.
 ESAの副作用としては血圧上昇が最も多く,特にESAの使用に伴いHbが上昇している時期に出現しやすい.2週間で1 g/dLをこえるHb上昇は避けるべきと考えられている.主因は貧血改善による血液粘度の上昇や低酸素状態で弛緩していた血管の収縮である.これらは血小板機能障害の改善と併せ,血栓塞栓症の原因となる.特に高い目標Hbで発症が増加するとの報告があり,重度の心血管系疾患の合併や既往者ではHb値が高くなりすぎないよう注意が必要である.ESA使用に対する抗EPO抗体の出現で,赤芽球癆(pure red cell aplasia)の発症がまれに報告されている.[秋澤忠男]
■文献
日本透析医学会:慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン.透析会誌,41: 661-716,2008.
Singh AK, Szczech L, et al: Correction of anemia with epoetin alfa in chronic kidney disease. NEJM, 355: 2085-2098, 2006.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

家庭医学館 「腎性貧血」の解説

じんせいひんけつ【腎性貧血】

 腎臓(じんぞう)は古くから五臓六腑(ごぞうろっぷ)の1つに数えられているたいへん重要な臓器です。腎臓のおもなはたらきは、老廃物や不要となった水をからだの中から出し、血液をきれいにすることです。いわば、からだの洗濯機のようなはたらきです。
 しかし、腎臓はこの仕事だけではなく、そのほかいろいろと大事な役割を担っています。血圧に関係するレニン、骨をつくるのに関係する活性型ビタミンD、そして赤血球(せっけっきゅう)をつくるのに関係するエリスロポエチンという諸物質が腎臓でつくられていることが明らかにされています。
 慢性腎不全では、このエリスロポエチンをつくるはたらきが低下します。腎臓のはたらきが悪くなればなるほど、エリスロポエチンはつくられなくなります。その結果、赤血球ができにくくなり、すなわち、貧血となります。また尿毒症(にょうどくしょう)では、赤血球の寿命が短くなります。このように腎臓の病気にともなって現われる貧血を腎性貧血と呼びます。
 透析患者さんでは、この腎性貧血が大きな問題でした。貧血のため息切れ、立ちくらみがして、輸血をくり返すことがしばしばありました。しかし、注射薬としてのエリスロポエチンが使用できるようになり、透析患者さんに大きな福音をもたらしました。生活の質が高くなり、輸血の副作用を心配することがなくなったからです。

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