動物分類学上は脊索(せきさく)動物門Chordata、脊椎(せきつい)動物亜門Vertebrataあるいは頭蓋(とうがい)亜門Craniata、顎口(がっこう)上綱Gnathostomataに属する硬骨魚綱Osteichthyesを構成する魚類。体を支持する骨格系がよく骨化し、真の硬骨からなる魚類で、軟骨がよく発達したサメ・エイ類などの軟骨魚類に対語として用いる。硬骨魚綱にかわって条鰭綱(じょうきこう)Actinopterygiiを使う研究者もいる。
[落合 明・尼岡邦夫 2015年1月20日]
頭骨や背骨をはじめ各骨格は小骨が接合して形づくられ、頭蓋骨は多数の骨が縫合して構成される。尾びれは少数のものを除くと正尾(せいび)である。うきぶくろは退化するものもあるが、原則として比重調節に用いる。また、肺として機能するものもある。鰓孔(さいこう)が1対で、鰓蓋(さいがい)と口の開閉によって水を出し入れして呼吸する。体表は普通、薄い円鱗(えんりん)または櫛鱗(しつりん)で覆われるが、コズミン鱗(主として化石種にみられ、表面からエナメル層、コズミン層および板骨(ばんこつ)層の3層からなる鱗(うろこ)。コスミン鱗ともいう)や硬鱗をもつものもある。心臓は心臓球が退化する傾向にあり、動脈球が発達する。この類は、原始的な特徴を保持する古代魚的な現存種から著しく特殊化した種まで、多様化した種類を含んでいる。
[落合 明・尼岡邦夫 2015年1月20日]
硬骨魚綱は条鰭類と肉鰭類(にくきるい)に二分される。以前、前者はチョウザメ類とポリプテルス類(多鰭(たき)類)を含む軟質類、アミア類とガーパイク類を含む全骨類、現生種のほとんどの種を含む真骨類の3群に分かれていた。しかし、これらの類の特徴は混在し、化石種も加わるなど、それらの境は明瞭(めいりょう)ではなくなり複雑化してきたことから、現在では軟質類Chondrostei、腕鰭類(わんきるい)Cladistia、新鰭類Neopterygiiの3群に分類されている。軟質類にはチョウザメ類のみを残し、ポリプテルス類に対して腕鰭類を設立し、そして新鰭類には従来の真骨類にアミアとガーパイクの仲間を加えている。一方、肉鰭類はシーラカンスと肺魚の仲間を置いている。また、硬骨魚類に化石種の棘魚(きょくぎょ)類を加えたものを3群に分ける体系も出ている。このように硬骨魚類の分類体系はきわめて複雑になり、流動的である。
[落合 明・尼岡邦夫 2015年1月20日]
現存する硬骨魚類は約2万6891種が知られている。ごく一部のものは、葉状のひれを備える肉鰭類のシーラカンスや肺魚類のように、両生類の祖先型に近い体制をとり、系統上、陸上の四足動物につながる。しかし、96%以上の種類は真の水中生活者として独自の進化をした。
そのうち、軟質類のチョウザメ類は硬鱗、異尾、鎖骨をもつ古代魚の特徴を備え、チョウザメ25種とヘラチョウザメ2種が現存している。腕鰭類は腹びれと胸びれが葉状であるポリプテルス類のみを含み、ウナギ形をした1種とやや短い体の15種がアフリカの淡水域にいる。新鰭類は、体は硬鱗で覆われ、鰾(ひょう)(うきぶくろ)で空気呼吸ができるガーパイク7種とアミア1種がいるが、大部分は真骨魚類といわれる普通の魚類である。真骨魚類は多方面へ向かって多数の種に分化し、2万6840種を含み、現存する全魚類の96%を占める。鱗は存在する場合には円鱗または櫛鱗で、覆瓦(ふくが)状に並ぶ。尾びれは正尾。尾骨を構成する骨は少なくなり、単純化する。心臓球は退化し、動脈球が発達する。上顎(じょうがく)の縁辺は前上顎骨と主上顎骨で構成されていた型から伸出可能な前上顎骨のみで縁どられる型へと移行する。ひれの位置や構造は種類によって著しく異なる。下等なグループは背びれや腹びれが体の中央部またはそれより後方にある。これらのひれは軟条だけで支えられ、硬い棘(とげ)がまったくない。一方、高等なグループでは、背びれは頭部の後端付近から始まって基底が長く、前部には多くの棘があり、後部に軟条がある。胸びれは低位から高位へと移動する。腹びれは胸部に位置し、1本の棘と5本の軟条からなる。とくに腹びれの位置や構造は重要である。この類は40目に分かれている。種類数の多いものに、コイ目、ナマズ目、ウナギ目、タラ目、メダカ目、スズキ目、カサゴ目、カレイ目、フグ目などがある。
[落合 明・尼岡邦夫 2015年1月20日]
口に上下両あごをそなえる現生の魚類は軟骨魚綱と硬骨魚綱とに分けられるが,後者の種数はすこぶる多い。前者はサメ類,エイ類およびギンザメ類を含み,骨格が終生軟骨よりなるのに対し,後者では幼若期には軟骨であった骨格も発育成長に伴い,その大部分が硬骨で置換される。
硬骨魚綱は一般に条鰭(じようき)亜綱,総鰭亜綱,肺魚亜綱の3亜綱に分けられる。肺魚亜綱では胸びれと腹びれはむち状,または葉状で,中軸をなす1骨列とこれから派生する多数の小骨片列で支えられている。陸生の脊椎動物のように内鼻孔をそなえ,鼻腔が口腔に通じているのも目だった特徴である。歯は隆起縁の波うつ歯板を形成する。総鰭亜綱はシーラカンスを含む一群である。内鼻孔はない(数年前まではあると考えられていた)。
条鰭亜綱は骨格が軟骨でできているものもわずかながらあるが,一般には硬骨よりなる。うろこは硬鱗,円鱗または櫛鱗(しつりん)。ひれはよく発達している。えらは4対の全鰓(ぜんさい)からなり,5対目は変形して下咽頭骨(かいんとうこつ)になっている。内鼻孔はない。総排出腔をもたず,肛門と泌尿生殖孔とは明らかに分離している。チョウザメなどを含む軟質類,ガーパイク,アミアを含む全骨類および真骨類の3上目がこれに属する。これらのうち,真骨類は現在もっとも繁栄しているグループであり,大部分の魚類がこれに属している。
種類が多いだけに,それぞれの分化のしかたも多種多様であるが,それらのそなえる諸形質のうち系統学的に比較的原始的とされているのは次のようなものである。(1)骨が軟らかい。(2)ひれに棘条(きよくじよう)が発達していない。(3)腹びれが胸びれよりかなり後方(腹位)にある。(4)うろこが櫛鱗でなく円鱗である。(5)うきぶくろが気管で食道に通じている。(6)頭蓋骨に眼窩蝶形骨(がんかちようけいこつ)がある。(7)肩帯に中烏口骨(ちゆううこうこつ)がある。しかし,実際には種類によりすむ場所やその他の生態に適応して形態上の変異を示しているものもあり,これら形質上の基準のあてはまらない場合も少なくない。また,ウナギの葉形仔魚(しぎよ)(レプトセファラス),マンボウのオストラシオン,ブープス期稚魚,モラカントゥス期幼魚,チョウチョウウオのトリクチス期稚魚,カレイ類の眼の転移などのように発育成長の過程で著しい変態を遂げる魚種もある。
→魚類
執筆者:日比谷 京
化石としては軟質類→全骨類→真骨類の順に出現し,進化して現在に至っている。最古の硬骨魚類は軟質類のパレオニスクス目Palaeonisciformesに属するもので,古生代のシルル紀後期の地層から発見されている。全骨類には中生代から新生代の初めにかけて栄えた一群で,絶滅したレピドータスLepidotusが含まれる。もっとも進化した真骨類は現生の魚類の90%以上を占めるが,中生代の地層から多産するリコプテラやディプロミスタスDiplomystusなどもこれに属する。また総鰭類にはシーラカンスやエウステノプテロンなどが含まれるが,これらは肺魚類とともに両生類にもっとも近いと考えられている。進化の傾向として,外骨格はしだいに軽く,内骨格はしだいに硬骨が多くがんじょうになる。また骨の種類の数も高等になるほど少なくなる。
執筆者:上野 輝弥
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…残りのものはすべてあごと対鰭(または四肢)を獲得した顎口類Gnathostomataに属し,オルドビス紀中期に無顎類から分かれたと推定されている。この類で最古のものはシルル紀後期に現れ二畳紀まで栄えた板皮類(綱)Placodermiで,これから最初に分かれた(オルドビス紀後期)のが軟骨魚類Chondrichthyesと推定されているが,これの化石は,やはり板皮綱から分かれデボン紀前期に現れた硬骨魚類Osteichthyesよりも後のデボン紀中期にならないと姿を見せない。硬骨を獲得した硬骨魚綱の中の総鰭類(亜綱)Crossopterygiiから分かれ,四肢と肺を獲得した両生類Amphibiaはデボン紀から石炭紀への移行期,両生綱から分かれ羊膜を獲得した爬虫類Reptiliaは石炭紀後期,爬虫類の祖竜亜綱Archosauriaから分かれ羽毛を獲得した鳥類Avesはジュラ紀前期,同じく爬虫綱の単弓亜綱Synapsidaから分かれ毛と乳腺および3個の中耳小骨を獲得した哺乳類Mammaliaは三畳紀後期に現れている。…
…原索動物の被囊類(ホヤの類)の幼生やナメクジウオに見られる(図1)。軟骨および骨という組織は脊椎動物特有のもので,軟骨性骨格は板鰓(ばんさい)類(サメやエイの類)に,骨性骨格は硬骨魚類以上の脊椎動物のほとんどすべてに見られる。これら3種の骨格は個体発生的にも認められる。…
…口腔には歯,舌,唾液腺が,胃には胃腺が,小腸には絨毛(じゆうもう)と漿液腺(しようえきせん)があり,その前部(十二指腸)には胆汁を出す肝臓,膵液(すいえき)を出す膵臓が細い管で開口する。排出器官は腎管から発達した前腎(成体では円口類と原始的な硬骨魚類),中腎(魚類と両生類),または後腎(爬虫類,鳥類,哺乳類)である。中枢神経系は脳と脊髄に分かれ,脳は大脳(端脳),間脳,中脳,小脳および橋,延髄からなる。…
※「硬骨魚類」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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