成長ホルモン(読み)セイチョウホルモン

デジタル大辞泉 「成長ホルモン」の意味・読み・例文・類語

せいちょう‐ホルモン〔セイチヤウ‐〕【成長ホルモン/生長ホルモン】

脳下垂体前葉から分泌され、骨の発達やたんぱく質同化作用を促して体を成長させるホルモン。不足すると小人症に、過剰になると巨人症先端巨大症になる。ソマトトロピン。GH(growth hormone)。
植物ホルモン」に同じ。

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精選版 日本国語大辞典 「成長ホルモン」の意味・読み・例文・類語

せいちょう‐ホルモンセイチャウ‥【成長ホルモン】

  1. 〘 名詞 〙 ( ホルモンは[ドイツ語] Hormon ) 哺乳類の体全体の成長を促す蛋白系のホルモン。脳下垂体前葉から分泌される。成長期以前に分泌の低下が起こると小人症となり、過剰になると巨人症や末端肥大症などが起こる。〔人体の機能(1952)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「成長ホルモン」の意味・わかりやすい解説

成長ホルモン
せいちょうほるもん

下垂体前葉から分泌される単純タンパク質のホルモンで、脊椎(せきつい)動物全般にわたって存在するといわれている。GH(growth hormoneの略)、STH(somatotropic hormoneの略)とも表記し、化学物質名はソマトトロピンsomatotropinという。ヒトの成長ホルモンは、191個のアミノ酸残基からなり分子量が2万または2万2000の2種があり、その構造も明らかになっている。ウシ、ブタ、ヒツジなど多数の動物で、アミノ酸配列がわかっている。

 成長ホルモンは、種々の物質の代謝系を調節して、動物の成長に関係している。しかし、甲状腺(せん)ホルモン、インスリン、副腎(ふくじん)皮質ホルモン、性ホルモンなどのホルモンも物質代謝に関係している。成長ホルモンは、これらのホルモンと協調的あるいは拮抗(きっこう)的に作用し代謝調節を行う。したがって、成長ホルモンのみが成長促進の要因ではなく、他のホルモンとの調和のとれた分泌が、正常な成長に必要である。たとえば成長ホルモンは、組織におけるアミノ酸の分解を抑え、タンパク質の生合成を促進する。また脂肪組織からの遊離脂肪酸の放出を促進するとともに、組織へのその取り込みを増加させる。さらに、成長ホルモンは糖代謝にも関係し、肝臓からのブドウ糖の放出を促進し、筋肉や脂肪組織の血中からのブドウ糖の取り込みを減少させる。その結果、血糖値が上昇する。また、成長期の動物の長骨の両端にある骨端軟骨板に作用し、その増殖を促し、長骨の成長を促進している。このように、成長ホルモンは動物の成長に関与するが、反応する組織や発生段階により、その作用は変化する。とくにヒトでは、成長ホルモンの分泌亢進(こうしん)が小児期におこると巨人症に、長骨の骨端軟骨の増殖停止後におこると先端巨大症となる。その逆に、成長期のホルモン分泌不全により低身長症がおこる。成長ホルモンの分泌は、視床下部成長ホルモン抑制因子であるソマトスタチンにより放出が抑制され、成長ホルモン放出因子により促進される。

 成長ホルモン量は、抗原抗体反応を利用したラジオイムノアッセイにより測定する。生物学的測定法としては、下垂体を摘出した幼若ネズミに検体を注射し、脛骨(けいこつ)の骨端軟骨の成長を測定する方法や、ニワトリ胚(はい)の軟骨への硫酸塩の取り込みを測定する方法がある。魚類は、ウシ、ブタ、サル、ヒトの成長ホルモンには反応する。ラットは魚類の成長ホルモンには反応しないが、他の哺乳(ほにゅう)類の成長ホルモンに反応する。ヒトは、霊長類を含めて他の動物の成長ホルモンに反応しない。このため低身長症の治療には、かならずヒトの成長ホルモンを利用しなければならない。また、成長ホルモンは、肝臓、腎臓(じんぞう)や筋などで合成されるインスリン様成長因子Ⅰの合成・分泌を促進する。このインスリン様成長因子が、細胞増殖やタンパク質合成などの成長ホルモン作用を仲介していることがわかってきた。

[高橋純夫]

『鎮目和夫編著『成長ホルモンとその関連ペプチド』(1992・朝倉書店)』『日本比較内分泌学会編『成長ホルモン・プロラクチンファミリー』(1996・学会出版センター)』

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改訂新版 世界大百科事典 「成長ホルモン」の意味・わかりやすい解説

成長ホルモン (せいちょうホルモン)
growth hormone

GHと略記し,ソマトトロピンsomatotropin(STHと略記)ともいう。脊椎動物の脳下垂体前葉の好酸性細胞から分泌されるホルモンの一つ。分泌は視床下部の支配を受け,抑制因子ソマトスタチンsomatostatin(GIF,GIHまたはSRIFと略記)と促進因子(GRFまたはGRHと略記)によって調節される。このホルモンは硬骨魚類から哺乳類に至るまで1本鎖の単純タンパク質で,S-S結合をもつ。アミノ酸残基の総数は約190で,ヒト,ヒツジ,ウマ,ウシでは一次構造がわかっている。哺乳類以外では,ティラピアウシガエル,カメ,アヒルでアミノ酸の種類と数がわかっているが,各種類でアミノ酸の数が異なる。したがって作用についても強弱がある。成長ホルモンはプロラクチンと一次構造が類似している。例えばオタマジャクシにウシのプロラクチンを注射すると変態が抑えられ成長のみが起こる。したがってオタマジャクシでは,プロラクチンが成長ホルモンの働きもしていることになる。このことから,両ホルモンは系統発生学上一つの共通の祖先型分子から進化してきたと考えられる。硬骨魚類では両ホルモンがすでに存在するから,無顎類で共通の祖先型分子があるかどうか今後の解明がまたれる。
執筆者: 成長ホルモンは,生理作用の発現において,最も動物種特異性の高いタンパク質ホルモンである。ヒトに対しては,ヒト,サルの脳下垂体から得られたものしか有効でない(ちなみに,ウシからのものは霊長類には無効であるが,他のすべての哺乳類には有効である)。しかもサルの脳下垂体はヒトの1/10程度の大きさなので,ヒトに有効な成長ホルモンを得るためにヒトの脳下垂体を原料にせざるを得なかった。しかし,ヒトの成長ホルモンのアミノ酸配列は1971年に決定され,現在では,遺伝子組換えによる合成が実用化されている。成長ホルモンはあらゆる代謝に影響を与えるが,とくにタンパク質合成,骨形成促進作用が著しい。そのため,このホルモンが分泌過剰であれば,巨人症あるいは末端肥大症となり,分泌低下では脳下垂体性小人症がみられる。したがって,成長ホルモンの臨床的応用として,脳下垂体性小人症をはじめとする種々の発育不全症,未熟児,手術後の回復,消耗性疾患の回復,骨多孔症,骨折治癒促進などの治療にひじょうに有用なものである。
執筆者:

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内科学 第10版 「成長ホルモン」の解説

成長ホルモン(加齢とホルモン/ホルモン補償療法)

(2)成長ホルモン(growth hormone:GH)
 下垂体前葉ホルモンであるGHは肝臓のIGF-1の産生,分泌を促し,その作用を介して作用が発現する.GH,IGF-1の分泌量は思春期に最高となり,その後は加齢とともに低下する.成人GH欠損症患者では易疲労感,スタミナ低下,集中力低下,気力低下,認知力低下,うつ状態,性欲低下などを認めると同時に,骨密度の減少,筋肉量の減少,内臓脂肪の蓄積などを認める.これらの症状は加齢で認められる症状に類似することから,加齢に伴うGH-IGF-1の生理的低下でも同様のことが起こると想定されている.内臓脂肪の蓄積はインスリン抵抗性の観点から成人病の発症基盤として近年,重要視されている.またGHには筋肉の蛋白合成を促進し,筋線維を肥厚させる作用があり,加齢に伴う筋力や運動能力の低下の一部はGH分泌不全で説明できる可能性がある.また,健常成人では骨塩量とIGF-1値には正相関が認められ,GH-IGF-1値の低下は老年期における骨量の減少にも関与している.事実,成人GH分泌不全症患者にGH補充療法を行うと体脂肪の減少,筋肉や骨量,体液量の増加がみられ,さらに脂質代謝改善効果を通じて心血管障害による死亡リスクも減じる.
 健常高齢者におけるGHの低下を若年者レベルまで回復させるGH補充療法の試みは,lean body mass(LBM;除脂肪体重)の増加,体脂肪の減少,椎体骨骨密度の増加などの有益な効果が報告された.しかしながらその後の追試研究では,体構成変化には再現性が認められたものの,筋力増強を伴う明確な日常機能の向上を認めず,むしろGH 補充により末梢性浮腫,関節痛などの副作用も比較的高頻度に出現した.2009年,国際組織であるGrowth Hormone Research Society(GRS)は,健康寿命の達成を目的とするアンチエイジング医療としてのGH 補充治療は現時点では推奨しないとの見解を発表しており,わが国でも医療保険上,その目的での適応は認められていない.[柳瀬敏彦]
■文献
岩本晃明,他:日本人成人男子の総テストステロン,遊離テストステロンの基準値の設定.日泌尿会誌,95: 751-760,2004.
Roth GS, et al: Biomarkers of caloric restriction may predict longevity in humans. Science, 297: 811, 2002. 柳瀬敏彦,村瀨邦崇:アンチエイジングとしてのホルモン補充療法− GH, DHEA, テストステロン−. 臨床と研究,87: 515-520, 2010.

成長ホルモン(下垂体前葉ホルモン)

(2)成長ホルモン(growth hormone:GH)
a.化学構造と生合成
 下垂体前葉の半数近くを占めるGH分泌細胞により分泌されるGHの大部分は191個のアミノ酸残基からなる22 kGHで,2個のS-S結合を有する.また,22 kGHの32~46番目のアミノ酸配列が欠如した176個のアミノ酸残基からなる20 kGHが5~10%の割合で血中に存在している.これらGHは血中では単量体,二量体,多量体,さらにGH結合蛋白質(GH binding protein)に結合した形で存在している.22 kGHの約1/2が結合している結合蛋白質はGH受容体の細胞外構造が切断され血中に遊離したものである.遊離型のGHがGH受容体に結合して作用を示す.
b.作用
 GHは細胞膜を1回貫通する直鎖受容体に結合し,成長促進,細胞のアミノ酸の取り込みの促進,核酸,蛋白質の合成促進,脂肪分解,血中遊離脂肪酸の増加,グルコースの取り込みの抑制と肝臓からのグルコース放出の促進,腎尿細管でのリン酸塩,Na,K,Clイオンの再吸収の促進,小腸のCaイオン吸収促進,免疫担当細胞の機能亢進,肝臓や軟骨などのさまざまな組織でのインスリン様成長因子-Ⅰ(insulin-like growth factor-Ⅰ:IGF-Ⅰ,ソマトメジンC)の産生作用などを示す.IGF-Ⅰは血中に分泌されてホルモンとして作用するのみならず,自己分泌的,傍分泌的に作用して,各組織の細胞増殖,骨の長軸方向の成長促進および骨密度増加作用などを示す.
c.分泌調節
 GH分泌は視床下部のGH分泌促進作用を示す成長ホルモン放出ホルモン(growth hormone releasing hormone:GHRH)と分泌抑制作用を示すソマトスタチン(somatostatin:SRIH)の二重支配を受けて調節されている(図12-2-4).徐波睡眠,空腹,低血糖,血中遊離脂肪酸の低下,ストレス,運動,エストロゲン,グレリン,アルギニンやグルタミン酸などのアミノ酸投与によりGH分泌は促進し,高血糖,血中遊離脂肪酸の上昇,REM睡眠などによりGH分泌は抑制される.加齢に伴い中高年ではGH分泌が低下する.GH分泌に対し,薬剤ではドパミン作動薬,αアドレナリン作動薬,βアドレナリン遮断薬が促進的に,αアドレナリン遮断薬,βアドレナリン作動薬が抑制的に作用する.GHやIGF-Ⅰが下垂体,視床下部のGHRH神経細胞やSRIH神経細胞に作用してGH分泌を抑制する負のフィードバック機構が存在する.[芝﨑 保]

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百科事典マイペディア 「成長ホルモン」の意味・わかりやすい解説

成長ホルモン【せいちょうホルモン】

GH,ソマトトロピン(STHと略記)とも。脳下垂体前葉ホルモンの一種で,細胞膜のアミノ酸通過を刺激するなどタンパク質合成を直接・間接に支配し成長促進に働く。成長ホルモンそのものの分泌は抑制因子(ソマトスタチン)と促進因子によって調節される。過剰分泌すると若年では巨人症を,成人後では顎,手足の末端などが肥大する末端肥大症を起こす。少ないと脳下垂体性小人症などの発育不全症になる。広義には植物ホルモンも含む。
→関連項目希少疾病用医薬品脳下垂体前葉ホルモンヒト成長ホルモン

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「成長ホルモン」の意味・わかりやすい解説

成長ホルモン
せいちょうホルモン
growth hormone

(1) 植物の生長現象に関係するホルモンで,次のようなものが知られている。オーキシンジベレリン類,サイトカイニン酸 (主として細胞分裂) ,花成ホルモン (催花作用) ,アプサイシン酸 (離層や休眠芽形成) など。しかし,たとえばエチレンなども種子休眠の中断,落葉や果実成熟の促進という,ホルモン様の作用を示す。利用法として,挿木の発根促進にオーキシンが使われるが,オーキシン作用をもつ2,4-Dは特定の植物を徒長させて枯らす除草剤として使われている。ジベレリンは花卉栽培,種なしブドウに利用される。 (2) 動物では,脳下垂体前葉から出て全身の発育を促進するポリペプチドの成長ホルモンがある。別名ソマトトロピン somatotropinという。

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化学辞典 第2版 「成長ホルモン」の解説

成長ホルモン
セイチョウホルモン
growth hormone

略称GHまたはSTH.ソマトトロピン(somatotropic hormone,somatotropin)ともいう.下垂体前葉ホルモンの一つ.動物の成長を支配するホルモンで,各種動物の下垂体に存在しており,抽出,精製されている.分子量は動物種により異なるが,2.5×104~5×104 のポリペプチドである.成長促進作用,タンパク質同化促進作用などがみられる.[CAS 9002-72-6]

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栄養・生化学辞典 「成長ホルモン」の解説

成長ホルモン

 ソマトトロピンともいう.下垂体が分泌するタンパク質ホルモンで,動物の成長を促進する作用を示す.

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世界大百科事典(旧版)内の成長ホルモンの言及

【脳下垂体】より


[前葉と前葉ホルモン]
 腺下垂体の前葉からは数多くのホルモンが分泌されるが,現在までに完全にわかっているものは6種類である。すなわち,成長ホルモン,プロラクチン,副腎皮質刺激ホルモン,甲状腺刺激ホルモン,卵胞刺激ホルモン,黄体形成ホルモンである。このほか最近の説ではリポトロピンエンドルフィン,エンケファリンも分泌されるという。…

【ホルモン】より

…これらのホルモンには,黄体形成ホルモン放出ホルモン(略号LHRH。濾胞(卵胞)刺激ホルモン放出ホルモンと同一のものと考えられている),甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH),副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH),プロラクチンの放出ホルモン(PRH)と抑制ホルモン(PIH),成長ホルモンの放出ホルモン(GRH)と抑制ホルモン(GIH。抑制ホルモンはソマトスタチンともいわれる),黒色素胞刺激ホルモンの放出ホルモン(MRH)と抑制ホルモン(MIH)などがある。…

※「成長ホルモン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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