日本大百科全書(ニッポニカ) 「手話法」の意味・わかりやすい解説
手話法
しゅわほう
聴覚障害児(者)の教育で、手話や指文字を中心としてコミュニケーションや指導を行う方法。指導場面では、音声と併行して行われる場合が多いが、音声を伴わない場合もある。聴覚障害教育(聾(ろう)教育)では、古くから手話法による指導と音声に基づく口話法による指導について議論がなされてきた。
フランスのド・レペC. M. De l'Epée(1712―89)は、手話と指文字で聾児を教育する「方法的手話」を考案し、実践した。ドイツのハイニッケS. Heinicke(1727―90)の口話法と同時代であり、ヨーロッパでは200年間(アメリカでは100年間)「口話手話論争」が続いた。1880年の第2回聾教育国際会議で、口話法の採用が決議されて以来、世界各国で口話法が優勢を占めた。
しかしその後、口話法と手話法の融合が進み、アメリカでは1968年から聴覚、口話、手話など種々のコミュニケーション手段を適切に用いるトータル・コミュニケーションが広く普及した。日本でも同年(昭和43)から栃木県立聾学校(宇都宮市若草)で聴覚、口話、手話、指文字を併用する「同時法的手話」の実践が始まった。2000年(平成12)ごろからは、早期の教育段階でも、聴覚や口話に加えて手話が広く用いられるようになった。
一方アメリカでは、1980年代末から手話言語(アメリカ手話)で早期教育を開始し、これとともに、英語を使用していく「二言語二文化教育」の実践が台頭し、1990年代以降、実践が広がっていった。
[草薙進郎・四日市章]
『草薙進郎・四日市章編著『聴覚障害児の教育と方法』(1997・コレール社)』▽『中野善達・根本匡文編著『聴覚障害教育の基本と実際』改訂版(2008・田研出版)』