改訂新版 世界大百科事典 「抒情歌謡集」の意味・わかりやすい解説
抒情歌謡集 (じょじょうかようしゅう)
Lyrical Ballads
イギリス・ロマン派の詩人ワーズワースおよびコールリジの共著。初版1798年,再版1800年,第3版02年。1797年から98年にかけてサマセット州北部の隣人どうしであった両詩人の文学的友情の結実。コールリジの《文学的自叙伝》第14章の回想によると,コールリジは超自然的素材にリアリティを,ワーズワースは日常的素材に新鮮さを賦与することを目的とした。初版では,コールリジの作品は巻頭の《老水夫行》のほかに3編,ワーズワースの作品は巻末の《ティンターン・アベー》のほかに18編。純然たる〈歌謡ballad〉は少ない。初版は2人のドイツ滞在中,ブリストルのジョゼフ・コトルによって出版されたが売行きは悪く,雑誌による書評も不評であった。このため増補2巻本の再版に際して,ワーズワースは有名な序文を書き,18世紀の古典主義的措辞を排し,イギリスの田舎の日常的題材を,日常的言語を用いて表現することを擁護した。この詩集の作品および序文の理論を通じて,イギリス・ロマン主義を大きく前進させた功績は大きい。日本においては,ことにワーズワースの詩が明治20年代以降多数紹介・翻訳されるが,再版序文の影響が,合本《藤村詩集》(1904)序文における島崎藤村の詩歌観にみられる。
執筆者:山内 久明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報