改訂新版 世界大百科事典 「抛入」の意味・わかりやすい解説
抛入 (なげいれ)
いけばな様式の一つ。抛入花の略称。形式にとらわれず,自然の姿をそのままいかしていけるいけばな。《仙伝抄》に〈なげ入はなといふは,舟などにいけたるはなのことなり〉という〈なげ入〉の用字は〈投入〉であり,舟形の花入などに気易く,形式化しないでいけた花をいっている。一方,明治以降から流行した〈投入花〉は,〈盛花(もりばな)〉とともに近代いけばなの新解釈によって形式化した花形(かぎよう)である。
〈抛入花〉の名称が初めて用いられたのは,《抛入花伝書》である。1624年(寛永1)ころから流行した立花(りつか)にかわる隆盛をもたらし,それとともに新興流派の勃興をみるにいたった。その理由は約束ごとの多い立花とは対照的に〈軽く花をいける〉(《源氏活花記》1764成立)ことができて,《抛入岸之波》(1740成立)が〈小座敷・囲(かこい)などの小床に一種一輪によらず,幽にして形を甚(はなはだ)つくらうことなく,ちょとさし入て,さびたる風情にかろく生けなしたる〉を〈なげいれ〉と記すように,気易く自由にいけられることによる。それが立花愛好者よりも幅広い一般大衆にたしなまれて流行の花形となった。〈小座敷・囲などの小床〉とは,茶の湯の座敷における床の間のことである。茶の湯の盛行にともない,風情を心得とするいけばなが求められ,なげいれは茶花(ちやばな)とよばれ普及をみた。《華道全書》(1717刊)に〈抛入は茶の湯に用い来れり〉とあり,その事情は知られよう。〈抛入〉の特徴は〈即興の翫物〉〈即座に生けもてなす〉といわれたように,短時間内で即興的にいけ観賞できることである。
→いけばな
執筆者:岡田 幸三+水江 漣子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報