日本大百科全書(ニッポニカ) 「摂論宗」の意味・わかりやすい解説
摂論宗
しょうろんしゅう
中国の仏教学派。インド仏教で成立した瑜伽行(ゆがぎょう)派の唯識(ゆいしき)説のうち、パラマールタ(真諦(しんだい)、499―569)によって中国に翻訳・紹介されたアサンガ(無著(むじゃく))の『摂大乗論(しょうだいじょうろん)』とバスバンドゥ(世親(せしん))の『摂大乗論釈』の教理を中心として研究する学派グループをいう。唯識説は、仏教の立場から、迷悟、染浄を含む人間の意識構造を、その深層領域にまで推求しながら体系的に記述しようとするものであるが、中国および日本の仏教学では、一般には玄奘(げんじょう)(600―664)が中国に伝えた『成唯識論(じょうゆいしきろん)』の学説を中心として基(窺基(きき)、632―682)が開いた法相(ほっそう)宗の名によって知られている。真諦の伝えた唯識説はそれとは系統の異なるものであり、古唯識といわれ、のちには法相宗の学問のなかに吸収された。『摂大乗論』の学習は、真諦在世中は振るわなかったが、没後、曇遷(どんせん)(542―607)がこれを北地に伝えてから盛んになったようであり、隋(ずい)、初唐代の仏教学に少なからぬ影響を与えた。
[柏木弘雄]
『宇井伯寿著『摂大乗論研究』(1935・岩波書店)』▽『宇井伯寿著『真諦三蔵伝の研究』(『印度哲学研究 第6巻』1930・岩波書店)』