改訂新版 世界大百科事典 「支払場所」の意味・わかりやすい解説
支払場所 (しはらいばしょ)
一般には債務の履行としての支払をなすべき地点をいう(〈弁済〉の項参照)が,手形または小切手に関しては,その支払をなすべき場所として証券上に記載された地点をいう。手形(小切手)の支払は,支払地のなかにある支払人または振出人(約束手形の場合)の営業所または住所でなされる(同所払・当地払)のが原則であるが,振出人または支払人が振出しまたは引受けに際し支払地内にある,それ以外の場所を証券上に指定したときは,この支払場所において支払呈示および拒絶証書の作成がなされなければならない(手形法4,27条,77条2項,小切手法8条)。この支払場所の指定は,振出人または支払人の営業所または住所が支払地内にない他地払手形では,もちろん必要であるが,営業所または住所が支払地内にある同地払手形でも,約束手形の受取人あるいは自己を受取人として振り出した為替手形(自己受為替手形)の振出人の営業所などを支払場所とすることにより,法律上債務者の住所または営業所で履行しなければならない債務(取立債務)である手形を,事実上,債権者の住所または営業所で履行しなければならない債務(持参債務)に変更できるなどの効用がある。さらに取引銀行の店舗を支払場所とすると同時に,その銀行を振出人または支払人に代わって支払事務を担当する者(支払担当者)に指定すれば,現金保管の危険や金銭出納の煩雑さを避けることができるし,他方,手形所持人にとっても,自己の取引銀行をとおし手形交換によって取り立てることができるなどの効用がある。支払場所の指定と支払担当者の指定とは,観念的には区別され,法的効果も異なるが,取引の実際では,ほとんど区別されていない。支払担当者と明記して指定することはまれである。現行法も両者を区別せず一括して規定している(両者を包括して,第三者方払・他所払という。上記の同所払・当所払に対する)。証券上の記載がそのいずれの意味であるかは,記載の内容によって決まる。たとえ〈支払場所〉と印刷された欄に記載されていてもその形式にはとらわれない。某ビル何号室というように場所を表すにすぎない場合は,単なる支払場所の指定と解される。これに対し,銀行の営業所名など人の名称と認められる記載がある場合は,支払担当者の指定を含むと解してよい。この場合には,支払呈示および支払拒絶証書の作成は,この者に対してなされなければならない。
→振出し
執筆者:今井 潔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報