手形法では種々の拒絶証書の作成が予定されている。そのうちで,とくに重要なのは,支払拒絶証書および引受拒絶証書である。前者は,手形の所持人が,本来支払をなすべき者(約束手形の振出人,為替手形の支払人・引受人)に適法な支払呈示をしたが支払がなかった事実を証明する公正証書である。また後者は,為替手形の所持人が支払人に満期までに引受けのための呈示をしたが支払人が引受け(の署名)を拒んだことを証明する公正証書である。拒絶証書は,手形自体の裏面またはそれに貼付した紙面(補箋)に公証人または執行官が記載して作成する。手形の裏書人や為替手形の振出人に手形金の支払を求める(遡求権(そきゆうけん))ためには,原則として支払拒絶証書の作成が必要である。所持人は,拒絶証書作成に要した費用を遡求義務者に請求することができる。遡求義務者は,拒絶証書作成を免除することによってその作成に要する費用を節約することができる。裏書人,為替手形の振出人またはそれらの者の保証人は,裏書・振出し・保証をする際に,〈拒絶証書不要〉または〈無費用償還〉その他これと同趣旨の文言を記載することによって,拒絶証書の作成を免除することができる。日本国の手形取引においては,一般に拒絶証書の作成は免除されている。
手形法では以上のほかに,一覧後定期払手形(〈満期〉の項目を参照)を一覧のため呈示したが,為替手形の支払人,約束手形の振出人が,一覧のための呈示があったことおよびその日付を手形上に記載することを拒んだ場合に作成される一覧拒絶証書,同じく一覧後定期払手形において支払人が引受けはしたが日付の記載を拒んだ場合に作成される日付拒絶証書その他の拒絶証書があるが,実際には作成されていない。
小切手の場合には,拒絶証書の代りに支払銀行および手形交換所の支払拒絶宣言を支払拒絶の証明手段として用いてもよい(小切手法39条)。手形交換所の支払拒絶宣言は実際上利用されておらず,一般に銀行の支払拒絶宣言が用いられている。これは,小切手の支払人とされている銀行が,支払呈示の日付と拒絶の日付を小切手自体に記載し,かつ支店長の記名捺印をして小切手の支払を拒絶する旨の宣言である。
執筆者:田辺 光政
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手形・小切手の支払いまたは引受けが拒絶されたとき、その事実を証明するための公正証書。手形法・小切手法上の遡求(そきゅう)権の保全・行使に必要な証書である。手形・小切手の所持人の委任に基づき公証人または執行官が作成することになっている。ただし、振出人、裏書人または保証人が手形・小切手上に拒絶証書の作成を免除する旨を記して署名したときは、手形・小切手の所持人は拒絶証書を作成しないで権利を行使することができる。日本においては、手形については拒絶証書作成の免除を示す文句を手形用紙に印刷するのが通常で、その作成が免除される場合が多い。これは、拒絶証書作成の手間および費用を節約するため、あるいは支払い(引受け)拒絶の事実の公表を避けるためである。
[那須正彦]
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