改訂新版 世界大百科事典 「振出し」の意味・わかりやすい解説
振出し (ふりだし)
手形(または小切手。以下同様)を発行する行為。手形行為の一種で,基本的手形行為という。証券を作成して,受取人に交付することからなる。振り出された証券を基本手形といい,これに必ず記載しなければならない事項(手形法1,75条,小切手法1条)を手形要件という。手形要件を一つでも欠けば,法によって救済される場合のほかは,手形として効力を生ぜず,振出しはもちろん,証券上になされた他の手形行為もすべて無効となる。為替手形および小切手では,振出しによって支払委託がなされ,支払人は振出人の計算において手形金額の支払をなしうる権限を取得し(〈支払人〉の項参照),受取人は自己の名をもって支払を受ける権限を取得する。それとともに,振出人は支払および為替手形の引受けを担保する責任(償還義務)を負担する(手形法9条,小切手法12条。〈遡求権〉の項参照)。約束手形では,振出しによって振出人は支払を約束し,手形金額の支払をなすべき債務を負担する(手形法78条)。
このような結果を生じる振出しの法的性質や成立要件については見解が分かれている。かつては手形の種類を問わず,振出しは債務負担を目的とする行為とみるものが多かった。この見解は約束手形では一般に肯定されている。しかし,為替手形および小切手では,振出しに償還義務負担の意思表示をみるのは擬制であると批判して,書面による支払指図とし,支払指図の性質は支払人および受取人に対する二重の授権と解するのが近時の多数説である。この立場では,償還義務は法定の効果とみる。また最近では,振出しが本質的には支払の委託を目的とする行為であることを承認しつつ,それとともになお償還義務の意思も認められるとして,第二次的に債務負担をも目的とする行為とみる見解も有力である。
→手形行為
執筆者:今井 潔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報