狂言の曲名。大名狂言。大蔵,和泉両流にある。大名は新しく家来を召し抱えようと思い,太郎冠者に適当な者を探してくるよう言いつける。冠者が街道へ出て人を待つと,運よく奉公の望みをもつ者が来合わせる。早速大名に見参させると数多くの技能を身につけた男で,とりわけ相撲が得意だという。喜んだ大名が相手をし,最初の一番に負けてしまう。大名は,奥から相撲の秘伝書を持ち出して読んだうえ,張り相撲という強引な手で勝つ。新参の者が再度挑戦,大名は苦戦となり,勝負半ばで秘伝書を取り出して読んだりするが,結局,打ち倒されてしまう。新参の者は勝ちどきをあげて退散し,憮然(ぶぜん)とした大名はそばにいる太郎冠者を引きずり回して倒す。登場は大名,太郎冠者,新参の者の3人で,大名がシテ。同工異曲の大名狂言に《蚊相撲》《鼻取相撲》がある。おうようで無邪気で稚気あふれる狂言の大名特有の性格が,輪郭の大きく骨法正しい芸の基礎のうえに描かれる。流派により〈ふみずもう〉とも称する。
執筆者:羽田 昶
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
狂言の曲名。大名狂言。「ふみずもう」ともいう。家来は太郎冠者(かじゃ)ただ1人という大名(シテ)が、新参者を召し抱えたいといいだし、太郎冠者に人材を探しに行かせる。太郎冠者が連れ帰ってきた男は、相撲が得意だという。喜んだ大名はさっそく相撲を挑むが、たちまち負けてしまう。悔しがった大名は、相撲の書を持ち出してにわか勉強。再戦は手引書どおりまんまと勝つが、三度目に手の内を知った男にたたきのめされてしまう。悄然(しょうぜん)と起き上がった大名、相撲の書を引きちぎり、のんびり見物を決め込んでいた太郎冠者を腹いせに倒して幕に入る。大名の大らかで無邪気な性格がよく描かれた作品。小道具の「相撲の書」が、大名の教養や知識の象徴と思えるほど、みごとな効果を発揮する。
[油谷光雄]
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