狂言に登場する役柄。大名,果報者(かほうもの),主と呼ばれる役柄の人物に仕える召使の役で,狂言に登場する役柄の中ではもっとも数の多い代表的な人物である。《清水(しみず)》《縄綯(なわない)》《千鳥》《鐘の音》《止動方角》《寝音曲(ねおんぎよく)》《素袍落(すおうおとし)》《木六駄》など,大蔵流では小名(しようみよう)狂言,和泉流では太郎冠者物と称される演目群にシテとして登場し,《末広がり》《目近(めぢか)》《三本柱(さんぼんのはしら)》などの脇狂言,《粟田口》《入間川》《今参り》《文相撲(ふずもう)》《靱猿(うつぼざる)》《鬼瓦》《萩大名》などの大名狂言ではアド(能のワキ役にあたる)として登場する。冠者という語は,もと元服加冠したばかりの若者の称で,のちに主持ちの若者をも意味したが,狂言では若者の意味はなく,男性の総領の通俗的呼称である太郎を付して召使一般を意味する類型的役柄となった。太郎冠者の性格・人間像は個々の演目により異なるが,概して,臆病,横着,粗忽,放縦,酒好き等の特性ゆえに主人の怒りを買い,ときに才気と知恵を発揮して主人をしのぎ,状況に応じて率直,機敏な反応を示す豊かな感受性と人間性を示すなど,庶民的人間像に普遍的な心理や性癖を備えているといえる。なお,《附子(ぶす)》《樋(ひ)の酒》《棒縛》《鳴子》《狐塚》《文荷(ふみにない)》など太郎冠者をシテとする狂言には,太郎冠者の後輩として次郎冠者なる召使が登場する演目があり,この場合の次郎冠者は,太郎冠者を補佐して演技やせりふの重複・反復を効果的に生かしたり,ときに太郎冠者の分身的役割を果たしたりする。
→狂言
執筆者:羽田 昶
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
狂言の登場人物。狂言では、主人に対する召使いを普通、太郎冠者とよぶ。同じ身分の者が2人以上登場する場合、次郎冠者、三郎冠者と順に名づけ(四郎冠者以上はない)、太郎冠者は先輩格の召使いの通称である。太郎は筆頭者あるいは代表的な者に対する一般名であり、冠者は本来元服して加冠した少年の意だが、少年、弱年の従者、単なる従者と意味が転化したもので、この太郎と冠者が結び付いたのが太郎冠者の語源であろう。
現行狂言263曲中、太郎冠者が登場するのは95曲、うち48曲がシテ(主役)であり、続く僧シテ18曲、大名シテ16曲という数字からも、太郎冠者は狂言の世界を形成する代表的パーソナリティーである。忠実な従僕である一方、主人を向こうに回して才気煥発(かんぱつ)、はたまた酒好きで横着、いたずら心いっぱいに人生を謳歌(おうか)する、という庶民の生活感覚を余すところなく表現した人物像である。
[油谷光雄]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… ツバキ類はヤブツバキやユキツバキから直接由来した品種だけでなく,起源のよくわからないものや雑種起源の種も分化している。子房に毛のあるワビスケ群は30余種あるが,これらは太郎冠者(たろうかじや)に起源をもつ実生品種と考えられている。しかし,太郎冠者自身の来歴はまだなぞに包まれている。…
※「太郎冠者」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新