太郎冠者(読み)タロウカジャ

デジタル大辞泉 「太郎冠者」の意味・読み・例文・類語

たろう‐かじゃ〔タラウクワジヤ〕【太郎冠者】

狂言役柄の一。大名・主に対する従者・召し使いとして登場する人物。主人より主要な役回りに立つことも多い。

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精選版 日本国語大辞典 「太郎冠者」の意味・読み・例文・類語

たろう‐かじゃ タラウクヮジャ【太郎冠者】

〘名〙
中世、家に召しかかえておいて走り使いなどの役をする男の使用人のうち、最も古参のもの。
② 狂言の役柄の一つ。大名または主に対し従者として登場する。一般に主人より才気があり、知恵、行動力などにおいて主人をしのぐ者として演じられることが多い。なお同種の従者が二人または三人の場合、中心となる者を太郎冠者、二番目を次郎冠者、三番目を三郎冠者という。
※虎明本狂言・入間川(室町末‐近世初)「『太郎くゎじゃあるか』『お前に』」
③ 滑稽な、また、まぬけな様子をした者をさしていう語。
※雑俳・柳多留‐一〇四(1828)「一日は民も登城の太郎冠者」

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改訂新版 世界大百科事典 「太郎冠者」の意味・わかりやすい解説

太郎冠者 (たろうかじゃ)

狂言に登場する役柄。大名,果報者(かほうもの),主と呼ばれる役柄の人物に仕える召使の役で,狂言に登場する役柄の中ではもっとも数の多い代表的な人物である。《清水(しみず)》《縄綯(なわない)》《千鳥》《鐘の音》《止動方角》《寝音曲(ねおんぎよく)》《素袍落(すおうおとし)》《木六駄》など,大蔵流では小名(しようみよう)狂言,和泉流では太郎冠者物と称される演目群にシテとして登場し,《末広がり》《目近(めぢか)》《三本柱(さんぼんのはしら)》などの脇狂言,《粟田口》《入間川》《今参り》《文相撲(ふずもう)》《靱猿(うつぼざる)》《鬼瓦》《萩大名》などの大名狂言ではアド(能のワキ役にあたる)として登場する。冠者という語は,もと元服加冠したばかりの若者の称で,のちに主持ちの若者をも意味したが,狂言では若者の意味はなく,男性の総領の通俗的呼称である太郎を付して召使一般を意味する類型的役柄となった。太郎冠者の性格・人間像は個々の演目により異なるが,概して,臆病,横着,粗忽,放縦,酒好き等の特性ゆえに主人の怒りを買い,ときに才気と知恵を発揮して主人をしのぎ,状況に応じて率直,機敏な反応を示す豊かな感受性と人間性を示すなど,庶民的人間像に普遍的な心理や性癖を備えているといえる。なお,《附子(ぶす)》《樋(ひ)の酒》《棒縛》《鳴子》《狐塚》《文荷(ふみにない)》など太郎冠者をシテとする狂言には,太郎冠者の後輩として次郎冠者なる召使が登場する演目があり,この場合の次郎冠者は,太郎冠者を補佐して演技せりふ重複・反復を効果的に生かしたり,ときに太郎冠者の分身的役割を果たしたりする。
狂言
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「太郎冠者」の意味・わかりやすい解説

太郎冠者
たろうかじゃ

狂言の登場人物。狂言では、主人に対する召使いを普通、太郎冠者とよぶ。同じ身分の者が2人以上登場する場合、次郎冠者、三郎冠者と順に名づけ(四郎冠者以上はない)、太郎冠者は先輩格の召使いの通称である。太郎は筆頭者あるいは代表的な者に対する一般名であり、冠者は本来元服して加冠した少年の意だが、少年、弱年の従者、単なる従者と意味が転化したもので、この太郎と冠者が結び付いたのが太郎冠者の語源であろう。

 現行狂言263曲中、太郎冠者が登場するのは95曲、うち48曲がシテ(主役)であり、続く僧シテ18曲、大名シテ16曲という数字からも、太郎冠者は狂言の世界を形成する代表的パーソナリティーである。忠実な従僕である一方、主人を向こうに回して才気煥発(かんぱつ)、はたまた酒好きで横着、いたずら心いっぱいに人生を謳歌(おうか)する、という庶民の生活感覚を余すところなく表現した人物像である。

[油谷光雄]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「太郎冠者」の意味・わかりやすい解説

太郎冠者
たろうかじゃ

狂言の役。一般に冠者は元服して冠をつけた若者をいうが,狂言では召使の筆頭をさす。召使が2人以上いる場合は,以下,次郎冠者,三郎冠者となる。狂言登場の代表的人物で,シテの役が多く,現行 260番中 48番もあり,太郎冠者物という分類がある。アドの役や,小アドの役も多い。その役柄は,庶民の代表ともいうべく,愛嬌があり,無知やおうちゃく,また酒のうえでの失敗などを無邪気に,陽気に扱っている。次郎冠者以下は,アドまたは小アドとして太郎冠者の引立て役となる。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「太郎冠者」の解説

太郎冠者 たろうかじゃ

狂言の登場人物。
大名や武士につかえた従者のうち,筆頭格の者をよぶ通称。従者がほかにも登場する場合は2人目を次郎冠者,3人目を三郎冠者とよぶ。狂言の代表的な役柄で,横着さと小心さ,ずるがしこさと実直さなど矛盾した性格をもつ,いたずら心いっぱいの人間像を体現している。太郎冠者をシテ(主役)とする曲目に「附子(ぶす)」「鞍馬参(くらままいり)」などがある。

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