新国際経済秩序
しんこくさいけいざいちつじょ
New International Economic Order
略称NIEO。1973年秋の石油輸出国機構(OPEC(オペック))による石油戦略(禁輸措置を背景とする石油価格の大幅引上げ)がいちおうの成功を収めたことを契機として、先進国に対する開発途上国の諸要求は、1974年4月の国連資源特別総会における「新国際経済秩序樹立宣言」として結実し、そのオクターブを一段と高めることとなった。
この宣言によれば、新国際経済秩序は、「世界人口の70%を占めている開発途上国は、世界全体の収入の30%を得ているにすぎない。現存する国際経済秩序のもとでは、公平かつバランスのとれた国際社会の発展を実現することは不可能であることが証明された。先進国と開発途上国の間の格差は、大部分の開発途上国がまだ独立国としては存在していなかったときに形成され、不公平を固定化するような機構のなかにあって、さらに拡大していくであろう」という認識に立脚し、これにかわって「すべての国家間の公正、主権の平等、相互依存、共通の関心および協力に基礎を置き、不平等を是正し、現存する不正義をなくし、先進国と開発途上国間の拡大しつつある格差を除去し、現在および未来の世代のために平和でかつ正義にのっとった経済社会を堅実に推し進めることを保証するもの」として創設されるものであり、問題解決に対するすべての国家の完全かつ効果的な参加、すべての国の天然資源と全経済活動に対する完全な恒久主権、受入れ国の利益に合致する方向での多国籍企業の規制、輸出入価格の公正かつ平等な関係の実現による開発途上国交易条件の持続的改善、国際通貨機構の改革を含めた援助の拡大と条件の緩和、開発途上国に対する特恵的・非互恵的取扱い、近代的な科学・技術へのアクセスの保証、開発途上国相互間での協力の強化、生産者同盟が果たしうる役割の強化、といった諸原則の尊重に基礎を置くものとされていた。また、この宣言の適用を確実なものとするために必要な行動計画として掲げられたおもなものは、次のとおりである。〔1〕一次産品の開発と貿易に関して (1)開発途上国の一次産品輸出価格を先進国からの工業品輸入価格とリンクさせ、さらには一次産品交易条件の持続的不利化傾向を逆転させる措置、(2)開発途上国が関心をもつ輸出品についての商品協定締結を含めた総合的計画の準備、(3)先進国の関税・非関税障壁の撤廃、(4)一般特恵制度の改善と拡大、(5)産業調整を通じた市場開放、(6)開発途上国による加工の促進など。
〔2〕国際通貨制度と援助について (1)SDRの追加的創造とそれを開発資金にリンクさせるメカニズムの早期決定、(2)すでに合意された援助拡大の履行と援助のアンタイド(使途を限定しないこと)化、(3)補償融資制度などの対開発途上国金融措置の改善、(4)受入れ国の必要性と要請に合致した形での政府・民間投資の促進、(5)開発途上国が厳しい条件のもとで余儀なくされた債務負担を軽減するための緊急措置、(6)インフレや為替(かわせ)レートの変更が開発途上国にとくに不利な影響を与える事態を防止する意味も含め国際通貨機構の諸決定過程への開発途上国の効果的参加(投票形式の公平化を通じる)を保証する措置など。
〔3〕その他工業化、技術移転等に関して (1)工業化とくに輸出指向的工業化プロジェクトに対する民間投資の促進、(2)一次産品加工施設設立への援助、(3)開発途上国固有の技術開発への援助、(4)技術移転のコスト軽減を含めた技術移転に関する国際的行動基準の作成、(5)内政干渉の排除、開発への参与、利益の再投資、受入れ国への還元を含めた多国籍企業に関する国際的行動基準の採択、(6)特恵的貿易拡大を意図する開発途上国間経済統合の促進とこれに対する先進国の協力など。
ところでこの宣言が具体的に掲げた行動計画を子細に検討すると、新国際経済秩序は、一方において、開発途上国に対する資金の継続的な流れ、それも無償ヒモ抜きの形での一方的な流れを確保しようとする欲求を反映し、他方において、一次産品価格の引上げ、交易条件の改善を通じて開発途上国に対するいっそうの購買力(所得や富)の継続的移転を保証するメカニズムの確立を目ざすものであることをうかがい知ることができる。それは贈与の形でのあからさまな、また交易条件の人為的改善による隠れた形での先進国から開発途上国への所得再分配要求なのである。
しかしながら、このような形態での「所得再分配」が、一国の経済発展にとってより重要である開発途上国側の地道な自助努力の結果としての「所得創出能力」に結実する明確な保証はなんら存在しないといってよい。新国際経済秩序がもつ最大の欠陥は、それが一方的な所得の再分配を求めながら、再分配された所得の増分がいかにして自らの「所得創出能力」を引き上げるかについて、明確かつ説得的なスケジュールを示していない点にある。
現実の問題として、たとえばアジアNIES(ニーズ)(新興工業経済地域)やASEAN(アセアン)(東南アジア諸国連合)の一部の国・地域がIMF・GATT(ガット)体制(旧国際経済秩序)のもとでみごとな経済成長成果を示したこと、その後、石油価格が低下したこと(逆オイル・ショック)、懸念されたように、産油国に流れた膨大な「オイル・マネー」がそこでの「所得創造能力」に結び付かず、南北格差が依然として解消に向かわなかったことなどの理由で、今日ではこの新国際経済秩序樹立へのうねりは、その意義とモメンタム(勢い)を失っている。
[村上 敦]
『川田侃編『今日の南北問題』(1976・日本評論社)』▽『村上敦「新国際経済秩序への疑問」(『現代経済』25号所収・1976・日本経済新聞社)』▽『池本清編『テキストブック国際経済』(1986・有斐閣)』▽『W・アーサー・ルイス著、水上健造訳『国際経済秩序の発展』(2001・文化書房博文社)』
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新国際経済秩序 (しんこくさいけいざいちつじょ)
new international economic order
NIEO(ニエオ)ともいう。第2次大戦後に南北問題が表面化して以来,国連等の場でさまざまな努力が払われてきたにもかかわらず事態がいっこうに改善されないことから,南側諸国の関心はしだいに援助や貿易という個々の問題から経済体制自体へと移行した。現行の国際経済秩序はこれをつくり出した先進諸国にとって有利で,南北格差を固定化するものであり,南の貧困を解決するためにはこの秩序自体を根本的に変革することが不可欠である,というのである。こうした認識のもとに,1970年代以降南側諸国は資源ナショナリズムを発動し,OPEC(オペツク)の石油戦略の成功(石油価格は1973年10月の中東戦争後短期間に4倍化)をてことして団結力を固め,発言力を強化してきたが,そのハイライトとして74年の第6回国連資源特別総会は〈新国際経済秩序(NIEO)樹立に関する宣言〉をコンセンサス方式で採択するにいたった。NIEOの主旨は,南北問題の解決には,従来の市場メカニズムに従った自由貿易の原則とは異なり,発展途上国に対する一方的な優遇措置を含む新たな原則が必要であるというものである。この要求の具体的内容はきわめて多岐にわたっており統一的体系を有しているとは言いがたいが,その中心は,贈与の増加を中心とする先進国からの〈資金援助の拡大〉と,交易条件改善のための〈一次産品価格の高位安定化〉である。これらは,その後UNCTAD(アンクタツド)における一次産品総合プログラムの実施要求をはじめ,多くの場面で南側諸国の行動基準となった。
NIEOに対してはさまざまな評価が下されており,輸出商品に対する市場機構を無視した政治力による高価格の設定や,非経済的手段による外貨獲得の保証は,本質的な南北問題の解決とはならないとの批判もある。NIEOの要求が南側の経済発展として結実するためには,北側からの援助を南側自身の自助努力に結びつけるメカニズムが必要であると思われる。また,NIEO樹立要求自体も,1980年代に入り南南問題に象徴されるように南側内部の分裂が鮮明化し,北側諸国が長期同時的不況に見舞われるに至って,当初の精彩を欠くようになった。
→南北問題
執筆者:村上 敦
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新国際経済秩序
しんこくさいけいざいちつじょ
New International Economic Order
1970年代に入って発展途上国が唱えた国際経済関係の変革を求める政策要求を総称する概念。 1973年の石油危機に続く世界経済の混乱を背景に,翌年4月に発展途上国の要請で開かれた国連第6回資源特別総会で採択された「新国際経済秩序の樹立に関する宣言 (決議 3201号) 及び行動計画 (決議 3202号) 」が明確に打ち出したもので,内容は南北の国際経済関係の全般にわたる。おもな要求としては,天然の富と資源に対する永久的主権,途上国産品の価格を輸入品の価格に連動させる公正価格制度の設置,先進国の市場を途上国産品のために開放すること,多国籍企業に対する規制などの強化,特恵制度の拡大,MSAC (石油危機で最も深刻な影響を受けた途上国) ・内陸国などの不利な立場におかれた発展途上国への特別の配慮がある。その後,これらの要求はある程度実現されてきたが,法典化はなされていない。
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「新国際経済秩序」の意味・わかりやすい解説
新国際経済秩序【しんこくさいけいざいちつじょ】
New International Economic Orderの頭文字からNIEO(ニエオ)とも。先進国優位の国際経済体制に対し,発展途上国(天然資源産出国)の経済力を高めようとするもの。1974年の国連資源特別総会でこの樹立宣言と行動計画が採択された。内容は自国の富や天然資源および経済活動に対する恒久的主権の確立,多国籍企業の監視と規制,発展途上国に不利な交易条件の改善などである。1990年代に入ってからは,発展途上国の環境保護問題も重要視されている。
→関連項目南北問題
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新国際経済秩序(NIEO)(しんこくさいけいざいちつじょ)
New International Economic Order
先進国優位の国際経済秩序に代わって,発展途上国側が構想した,より平等で公正な新しい国際経済秩序のこと。実態としては,非同盟諸国グループや77カ国グループとして圧倒的多数を占めた途上国によって,1974年の国連総会で採択された「新国際経済秩序樹立に関する宣言および行動計画」,「諸国家の経済権利義務憲章」などに現れた国際経済秩序構想をさす。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
世界大百科事典(旧版)内の新国際経済秩序の言及
【南北問題】より
…これをきっかけに,一方では主要資源について生産国同盟がつぎつぎと結成され,従来先進国起源の[多国籍企業]によって抑えられてきた天然資源に関する自国主権の確立がすすめられた。 他方では,74年4月に開かれた国連資源特別総会,同年末の国連第29回総会で,〈新国際経済秩序樹立に関する宣言〉〈諸国家の経済的権利義務憲章〉が相次いで採択され,いわゆる〈[新国際経済秩序]new international economic order〉(NIEO)の思考が打ち出された。NIEOの主要内容は二つある。…
【経済発展】より
… このような理解が南の諸国の南北間所得移転要求の理論的支柱としての役割を果たしていることは当然である。とりわけ,R.プレビッシュが創設にかかわり,初代事務局長を務めた[UNCTAD](アンクタツド)(国連貿易開発会議)においては,低開発性の原因が国際的分業システムの不合理性にあることが強調され,市場メカニズム自体が批判されるに至り,ついに1974年には[新国際経済秩序](NIEO(ニエオ))樹立宣言がなされたのである。
【非西欧世界と経済発展】
経済発展に関するもう一つの問題は,非西欧世界の発展の方向性である。…
【南北問題】より
…90年代にその構成国は170余国・地域となっているが,原初のG77の名称はそのまま用いられている)を結成し,ここに南の国々が初めてグループ化した。G77はそれ以後,UNCTADの場での南北問題,新国際経済秩序を推進する役割を担っている。以下,1960~90年代の南北問題の推移をながめ,南北問題の現状,主要争点,そして将来展望を考えることにしたい。…
【貿易】より
…発展途上国の工業品輸出に対して先進国側が特恵供与して(一般特恵関税,GSP)輸入を増やすことや,主要一次産品について商品協定を結んで,一次産品の輸出価格を引き上げようというものである。72年の第3回UNCTAD会議(サンチアゴ)では現行の世界貿易システムを発展途上国側に有利にすることを狙った[新国際経済秩序](NIEO)が採択された。 表3に示されるように,1970年代には2度の石油価格の引上げと他の一次産品価格の高騰もあって,発展途上国の輸出シェアも9ポイントも伸び,それにつられて逆方向の先進国の発展途上国向け輸出シェアも拡大した。…
※「新国際経済秩序」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」