フランスの博物学者ファーブルの主著。全10巻。第1巻は1879年,以下巻を追い,第10巻は1910年に刊行され,その後決定版が刊行されている。原書の副題にあるとおり〈昆虫の本能と習性についての研究Études sur l'instinct et les mœurs des insectes〉にほかならぬが,著者の自伝的回想をもまじえながら,肉眼をもって多くの昆虫の生態をつぶさに観察した記録を集成したものである。当時のフランスの官僚的アカデミズムの偏見に抗しつつ,1個の在野的〈科学の詩人〉がかちとった自然観察の成果を示すとともに,すぐれた動物文学の古典としてひろく愛読されるにいたった。古来のさまざまな動物寓話と,いわば倫理学の侍女として発達してきた動物学の系譜は,この《昆虫記》や,日本で《動物記》として知られているE.T.シートンの動物文学などによって,初めて近代的な科学的・文学的総合にまで高められたといえるが,これら動物文学になお残存する時代おくれの擬人主義には警戒を要する。しかしシートンの《動物記》が,その科学的観察の背後に,擬人的英雄主義のひずみを蔵しているのにくらべ,《昆虫記》には擬人主義をつとめて修辞的擬人法の範囲内にとどめようとする努力が見られ,その点,本書の科学書としての価値を過小評価してはならない。
なお,ファーブルを日本に最初に紹介したのは賀川豊彦であり(大正初期),《昆虫記》の邦訳は大杉栄によるものが最初である。
執筆者:林 達夫
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フランスの博物学者J・H・ファーブルの著作。1879~1910年に出版された全10巻の昆虫観察記録。副題として「昆虫の本能と習性の研究」とあるように、昆虫の生活における驚嘆すべき本能と習性を冷静に観察し、ときに巧みな実験によって明らかにしている。いくつかの章は自らの半生の自伝的回想にあてられている。観察の対象となった昆虫は多様で、クモやサソリも含まれる。糞(ふん)を丸めて餌(えさ)にしたり、そこに卵を産み付けるタマコガネ(フンコロガシ)の習性、著者の最初の研究対象になったハチの一種ツチスガリの狩猟方法などの記載はとくに有名。タマコガネの卵が、糞でつくられた洋ナシ型の玉の首のところに産み付けられることを、最初の観察から40年後に発見するくだりなどは、実に感動的である。『昆虫記』は文学的にみても優れた作品であり、文学者ロスタンはファーブルを、「詩人のごとき感覚をもち、詩人のごとく表現する」とたたえた。動物文学としてはシートンの『動物記』と肩を並べるが、『昆虫記』のほうがより客観的に対象をとらえており、擬人化の程度も少ない。『昆虫記』は日本ではとくに愛読され、和訳も数多い。
[八杉貞雄]
『ルグロ著、平岡昇他訳『ファーブル伝』(1960・白水社)』▽『山田吉彦・林達夫訳『昆虫記』全20巻(岩波文庫)』
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…また,その動作からdung‐pusherとも呼ばれる。【林 長閑】 ヒジリタマオシコガネは,ファーブルの《昆虫記》によって有名である。ファーブルは40年以上の歳月をかけてこの虫を調べ,その経過は《昆虫記》の,主として第1巻と第5巻に詳しく述べられている。…
…アメリカでは全博物図鑑中の最大傑作といわれるJ.J.オーデュボン《アメリカの鳥類》がほぼ同時期に出版されている。一方,博物学書は文芸作品と同じ感覚でも鑑賞されるようになり,G.ホワイトの《セルボーン博物誌》を先駆けとして,J.H.ファーブル《昆虫記》やE.T.シートン《動物記》のような人気作品が書かれた。 20世紀にはいると博物学は,生物学プロパーというよりもむしろ専門家でない自然愛好者が手がける分野と考えられるようになり,記述の学あるいは自然観察の学の全般的衰退をみるに至った。…
※「昆虫記」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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