翻訳|zoology
動物に関する科学。動物は古くから人類とは多くのかかわり合いをもち、強い関心のある対象であった。狩猟や漁獲の対象としての動物や、人間を襲う野獣やサメとか、ハチやカのような有害動物に関していろいろな知識が蓄積されていたことは、古い時代の壁画などからも想像にかたくない。また、家畜や養蜂(ようほう)のように人間が動物を飼育管理したり、ペットとして愛玩(あいがん)することも古い歴史をもっている。しかし、動物学という場合には、動物に関する知的な体系を意味し、植物学や地学とともに博物学の一分科とみることもできる。
[江上信雄]
博物学の一分科としての動物学は、紀元前4世紀に古代ギリシアのアリストテレスが、多くの動物を分類していろいろな記述をしたのが第一歩であった。中世のいわゆる暗黒時代には、動物の分類や生態についての断片的な記録があったにすぎず、動物について自然科学的に研究するという風潮がなく、動物学のみるべき進歩はなかった。ルネサンス以降、ふたたび自然を観察し自然から学ぶという古い時代の精神に帰る姿勢が生じ、また航海術の進歩とも絡んで、世界各地の動物に接する機会も増えて、動物に関する興味が広がった。さらに動物に対する生物学的関心が、因果律を求める方向へと発展する徴候が現れた。たとえば、イギリスの生理学者W・ハーベーが、人体の血液は血管中を循環すること、その原動力が心臓の拍動にあることを主張したのはその現れである。また、顕微鏡の発明によって微小な動物の存在が明らかになり、細胞構造がわかったことは、動物学に画期的な進展をもたらした。
[江上信雄]
動物形態学は、フランスのジョフロア・サンチレール父子、イギリスのT・H・ハクスリー、ドイツのE・H・ヘッケルらによって進められ、いろいろの動物の形態の比較解剖学へと進んだ。また動物発生学が、ドイツのK・E・ベーア、ロシアのA・O・コバレフスキー、ドイツのヘルトウィヒ兄弟らによって隆盛となり、発生と進化との関係が興味の中心となった。
動物進化論の起源は18世紀にさかのぼる。スウェーデンのC・リンネはその著のなかで、神が創造したと同様の種が存在するとして動物を命名し、これが学名の発祥となっている。そのころから進化について多くの人々が関心をもち始め、1859年に至ってイギリスのC・ダーウィンの『種の起原』によって進化論が勝利を得た。
発生学の分野ではさらに、単なる正常な発生の観察に飽き足らず、発生中の動物胚(はい)にいろいろな実験的手段を加え、これから発生の仕組みを研究する学問が、ドイツのH・ドリーシュやH・シュペーマンらによって進められ、動物学のなかでももっとも興味ある分野として一時期を風靡(ふうび)した。
動物学の主流は動物の分類や形態や生態に関するものであったが、しだいに生理学や生化学にも関心が広がり、また、個体を中心とする観点から細胞に主眼が移る傾向が生じてきた。最近における生物学全般の目覚ましい進展に伴い、動物の示すさまざまな現象も、より広い立場から自然科学的に解析する分野の進歩が著しい。たとえば動物の分類にしても、形態にとどまらず、生化学や免疫学的な手法などを取り入れて、その種の細胞を構成するタンパク質の特性(アミノ酸組成)をみるとか、行動を解析するといった手段もとられるようになってきた。そして現在では、生物学の一分野として、分子生物学にも基盤を置いて動物に共通した諸現象の一般原理を明らかにしようという傾向が強くなっている。
しかしまた、動物の各群に特徴的な点の研究ないし比較研究も動物学の重要な部分であり、便宜的に動物学を脊椎動物学(せきついどうぶつがく)と無脊椎動物学に二大別したり、動物群によって、原生動物学、昆虫学、魚類学に分けたり、さらにはもっと細かい単位での各論も盛んである。
生物学のいろいろな分野のうち動物を主体として扱う場合には、動物生理学、動物形態学、動物心理学、動物細胞学、動物地理学、動物生態学、動物遺伝学、動物発生学などというようによぶこともあり、それぞれの分野は独特の歴史、発想をもって進歩している。
[江上信雄]
動物を研究対象とする自然科学の分野で,植物学と対応するもの。今日では植物学と動物学を合わせて生物学と呼ぶことが多いが,その対象となる植物と動物の違いを反映して,内容は相当に異なる。動・植物学に共通する領域のうち,遺伝学や細胞学では両者の共通性が大きいが,形態学,生理学,分類学,生態学などではその差が大きく,それぞれ頭に動物の2字を冠して呼ぶのが普通である。また動物にのみ固有の領域として,発生学や動物行動学,神経生理学などがある。
動物に関する知識が初めて動物学としての体系を備えるのは,前4世紀のアリストテレスにおいてである。アリストテレスは《動物誌》《動物部分論》《動物進行論》《霊魂論》《動物運動論》《動物発生論》などの著作によって,今日の動物学が扱うほとんどすべての領域に先鞭をつけている。その後16世紀まで,大プリニウスの《博物誌》(1世紀)を除けば,動物学として見るべき進展はない(アリストテレスにもプリニウスにも植物関係の業績がほとんどないのは注目に値する)。ルネサンスの到来とともに,C.vonゲスナー,U.アルドロバンディらにおける博物学の系譜と,イタリアはパドバ大学を中心とする解剖学の系譜が合流して,リンネ,キュビエ,ラマルクらを経て近代的な動物分類学の基盤を築くに至る。一方,A.ベサリウス,W.ハービーによって確立された近代医学は,動物学に実験的,生理学的な方法論を導入した。また17世紀から18世紀にかけての前成説・後成説論争,自然発生説論争を通じて,実験的な発生学が著しい進歩を遂げた。やがて19世紀のC.ダーウィンの登場によって,動物学は新しい局面を迎え,現代生物学の一分野として統合されるに至った。
なお動物学を,その研究対象に応じて,昆虫学entomology,鳥学(鳥類学)ornithology,哺乳類学mammalogy,魚類学ichthyology,貝類学conchology,霊長類学primatologyなどと呼ぶことも多い。
→生物学
執筆者:日高 敏隆
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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