記録文学(読み)キロクブンガク

デジタル大辞泉 「記録文学」の意味・読み・例文・類語

きろく‐ぶんがく【記録文学】

事実を客観的に描写する、記録的性格の強い文学。ルポルタージュをはじめ、広くは伝記・日記・書簡集なども含まれる。

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精選版 日本国語大辞典 「記録文学」の意味・読み・例文・類語

きろく‐ぶんがく【記録文学】

  1. 〘 名詞 〙 事件や事柄を客観的に記録した文学作品。〔モダン用語辞典(1930)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「記録文学」の意味・わかりやすい解説

記録文学
きろくぶんがく

現在では記録文学はもっとも広い意味でのノンフィクション文学に包摂されている。もともとは、戦記や従軍報道、日記や生活記録などの、事実を基にして書き記した文章のことをいい、虚構(フィクション)である小説に対置される。報道、報告という意味合いも強く、「探訪文学」「報告文学」としてのルポルタージュと、その境界をはっきりと区分することはむずかしい。政治性、社会性、風俗性を帯びることは、その作品の本質上、避けることはできず、時代が過ぎれば風化、忘却されることも珍しいことではない。

 日清・日露戦争の従軍記録としての国木田独歩(くにきだどっぽ)の『愛弟通信』(1908)や田山花袋(かたい)の『第二軍従征日記』(1905)は、小説家として大成した彼らが書いた「報告文学」であるが、桜井忠温(ただよし)(1879―1956)の『肉弾』(1906)や『銃後』(1913)などは専門的な戦記作家による「記録文学」作品といえる。火野葦平(あしへい)の兵隊ものの作品や、第二次世界大戦後に書かれた吉田満(みつる)(1923―1979)の『戦艦大和ノ最期』(1952)や伊藤桂一(けいいち)の『静かなノモンハン』(1983)、江崎誠致(まさのり)(1922―2001)の『ルソンの谷間』(1957)のような戦記小説なども、こうした「記録文学」としての戦記の流れのなかにあるだろう。こうした戦記文学の背景には、厖大(ぼうだい)な戦争や戦場の記録、引揚げの記録、さらに原爆・空襲・銃後の生活の記録があり、近代における日本人の体験が、そうした記録のなかに保存されているのである。

 戦前・戦後の生活綴(つづ)り方運動の流れのなかでは、豊田正子(とよだまさこ)(1922―2010)の『綴方教室』(1937、1939)のような、子どもの作文による生活記録が出てきた。これは戦後においては無着成恭(むちゃくせいきょう)(1927―2023)編の『山びこ学校』(1951)のような学級文集や、安本末子(やすもとすえこ)(1943― )の『にあんちゃん』(1958)のような個人の日記として刊行され、ベストセラーとなった。「記録文学」とよべるほどの文学性をそれらの作品がもっていたかは疑問であるが、これらは生活記録の運動として、学校や職場などでのさまざまな体験記を生み出し、「自分史」の運動として現在も継続されているといえるだろう。

 政治批判、社会諷刺(ふうし)などの批判性をもったルポルタージュ作品として、杉浦明平(みんぺい)の『ノリソダ騒動記』(1953)などの一連の作品があり、松下竜一(1937―2004)、石牟礼道子(いしむれみちこ)、上野英信(ひでのぶ)(1927―1987)といった作家たちの、社会性、批判性の強い「記録文学」作品がある。しかし、これらは記録性を重視する「記録文学」という狭い枠組みのなかに押し込めるよりも、ノンフィクション文学として、その文学性をより強調したほうが、現代的な意味があると思われる。

[川村 湊]

『杉浦明平著『記録文学の世界』(1968・徳間書店)』『杉浦明平著『記録文学ノート』(1979・オリジン出版センター)』『篠田一士著『ノンフィクションの言語』(1985・集英社)』『槌田満文編『東京記録文学事典 明治元年~昭和20年』(1994・柏書房)』『桜井忠温著『肉弾――旅順実戦記』『銃後』(1978・国書刊行会)』『安本末子著『にあんちゃん――十歳の少女の日記』(1978・講談社)』『火野葦平著『火野葦平兵隊小説文庫1~9』(1978~1980・光人社)』『伊藤桂一著『静かなノモンハン』(1983・講談社)』『豊田正子著『綴方教室』第3版(1991・木鶏社)』『田山花袋著『定本 花袋全集(第25巻 第二従征)』(1995・臨川書店)』『江崎誠致著『ルソンの谷間――最悪の戦場一兵士の報告』(光人社NF文庫)』『国木田独歩著『愛弟通信』(岩波文庫)』『杉浦明平著『ノリソダ騒動記』(講談社文芸文庫)』『無着成恭編『山びこ学校』(岩波文庫)』『吉田満著『戦艦大和ノ最期』(講談社文芸文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「記録文学」の意味・わかりやすい解説

記録文学
きろくぶんがく

現実の事件をめぐる事実をふまえ,それを文学的に構成した作品で,広い意味ではノンフィクションすべてを含むが,その中心はルポルタージュ文学である。従軍記,旅行記などもこれに属する。日清戦争に記者として従軍した国木田独歩の『愛弟通信』 (1894~95) や,共産党弾圧事件を題材とした小林多喜二の『一九二八年三月十五日』 (1928) など日本の例としてあげることができるが,古典的名作とされるのは,ロシア十月革命を描いた J.リードの『世界をゆるがした十日間』 Ten Days That Shook the World (19) であろう。 1930年代の社会主義文学の出現とともに記録文学も盛んとなり,E.スノーの『中国の赤い星』 Red Star Over China (37) などが出た。その後は杉浦明平や,アメリカのメーラーの作品が知られている。

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