映画検閲(読み)えいがけんえつ

改訂新版 世界大百科事典 「映画検閲」の意味・わかりやすい解説

映画検閲 (えいがけんえつ)

1894年のエジソン映画《ファティーマ嬢の腰振りダンス》が,わいせつとの理由で〈おへその見える〉部分に線が入れられて以来,映画検閲は主として,(1)公序良俗を害する,(2)政治的に危険思想とみなされる,という理由で行われてきたことはいうまでもない。(1)の対象はとくに性と暴力,(2)の対象はことばである場合が多い。ロジャー・マンベル監修《世界映画百科》(1972)によれば,映画検閲の規制機関には,(1)行政機関(国家あるいは地方自治体),(2)宗教団体,(3)映画産業自体と3種類あるが,(1)はとくに政治的,思想的な理由,(2)は神への冒瀆(ぼうとく)や教会への侮辱とかいった純粋に倫理的な理由,そして(1),(2)のような外部からの干渉に対して映画産業が自衛するために,(3)の公的自主規制機関を設けているというのが実情である。日本の〈映倫(映画倫理規程管理委員会)〉もその一つで,日本映画の倫理性を業者自身の手で自主的に保つため,アメリカのプロダクション・コード(映画製作倫理規定)を参考として,日本映画連合会が制定した〈映画倫理規程〉を運営するため,1949年に創立された。映倫は民間団体であるため法的権力はもたず,そのため,55年にアメリカ映画暴力教室公開の際にアメリカ系映画会社の映倫非協力が世間非難を浴びたり,65年,武智鉄二監督《黒い雪》が映倫の審査に合格しながら警視庁介入を受けたり,同じように〈日活ロマン・ポルノ事件〉で映倫も共犯として警視庁から取調べを受けたりするという事態も起こっている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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