改訂新版 世界大百科事典 「晩化栽培」の意味・わかりやすい解説
晩化栽培 (ばんかさいばい)
かつて熊本県を中心に行われたイネの晩植栽培の一種で,田植時期を遅らせることにより,サンカメイチュウの被害を回避する栽培法である。1922年熊本県の技師藤本虎喜の創案になるもので,当時の普通期栽培の田植が6月上・中旬であったのを,サンカメイチュウの第1化期の発生の終わる7月中旬まで遅らせるという方式である。晩植による生育期間の短縮は収量の低下をもたらすが,この点は苗を密植することによって解決される。この栽培法は,その有効性が確かめられるにつれて,しだいに県下に普及していった。ただし,広域にわたって一斉に実施しないと所期の効果が期待できないため,30年代にはその実施が県令により強制されるような場面もあった。第2次世界大戦後にはパラチオンやDDTなどの強力な殺虫剤が出現し,サンカメイチュウの駆除が容易に行われるようになると,この栽培法はかえりみられなくなった。
執筆者:山崎 耕宇
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報