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有機塩素系殺虫剤の一つ。dichlorodiphenyltrichloroethaneの略。DDTにはいくつかの異性体があるが,その中で殺虫力のあるのはp,p-DDTである。1939年に,スイスのP.H.ミュラーらによってその殺虫性が発見され開発された。ミュラーはその業績で1948年度のノーベル生理学医学賞を受けた。
DDTは融点108℃の白色結晶で,メイチュウ,ヨトウムシ,ウンカ,スリップス,アオムシなどの農業害虫ばかりでなく,ハエ,カ,シラミ,ノミなどの衛生害虫に有効なので,第2次世界大戦中から,戦後にかけて大量に用いられた。哺乳類に対する急性毒性は,50%致死量LD50=250mg/kg(ラット,経口)と低毒性であるが,動物体内の組織,とくに脂肪組織に吸収蓄積されて慢性毒性を示す。このように残留性が高いことが問題となり,1971年から日本ではその使用が禁止となり,登録が抹消された。DDTは典型的な神経毒で,神経繊維に作用し,反復興奮をひきおこすことが明らかにされている。殺虫力は一般にパラチオン,BHCより劣り,遅効性である。
執筆者:高橋 信孝
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ジクロロジフェニルトリクロロエタンdichlorodiphenyltrichloroethaneの略称。正式化学名は2,2-bis (p-chlorophenyl)-1,1,1-trichloroethane。USP記載名はクロロフェノタン。有機合成殺虫剤の先駆をなすもので、1874年にツァイドラーOthmar Zeidler(1859―1911)により合成され、1939年にスイスのP・H・ミュラーによって殺虫力が発見された。第二次世界大戦中ドイツやアメリカで軍用に使用され、戦後は各国でカやハエやシラミなどの衛生害虫、あるいは農作物の害虫防除に広く用いられた。ベンゼンに結合するクロルの位置により4種の異性体があるが、殺虫力の強いのはp,p'(粗製品中約80%)で、白色針状結晶。モノクロルベンゼンとクロラールを硫酸で脱水縮合して合成する。水には溶けない。化学的に、また微生物的に分解しにくい安定な化合物である。DDTは神経繊維に作用する神経毒で、冷血動物に強い毒性を現し、哺乳(ほにゅう)類などの温血動物に対しては概して弱い。食物連鎖によって生物濃縮され、最終的に人体の脂肪組織に蓄積されるため残留毒性が問題となって、1969年(昭和44)より日本では自粛的に生産を中止し、1971年から使用が禁止となった。
[村田道雄]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…また鉱・工業からの廃液中の銅が沿岸のカキを汚染し,緑色の有毒カキが生産されたことも有名な事件である。(3)DDT,PCBの汚染 農業の生産性を高めるために,どこの国でも,多量の化学肥料や農薬を用いている。そのために生産性は確かに上がったが,一方では散布された農薬や余分の肥料は,大気中を浮遊し,地表に落下したものは河川を通じ,最終的には海洋に流れ込み,海洋の農薬汚染をもたらした。…
…
[種類]
現在までに用いられてきた殺虫剤を化学構造から分類すると表のとおりである。これら殺虫剤のうちDDT,γ‐BHC,ドリン剤などの有機塩素系殺虫剤は,安価でしかもたいへん有効な殺虫剤として,第2次大戦後二十数年間にわたって多用されたが,その残留性による慢性毒性の危険から,現在では大部分が製造停止,あるいは登録からはずされている。一方,有機リン酸エステル系殺虫剤として最初に開発されたTEPP,パラチオンなどは,急性毒性が強く,その有効性にかかわらず危険な殺虫剤と考えられていたが,その後の開発研究によって,低毒性の同族体,例えばマラソン,MEP,ダイアジノンなど多数が見いだされ,現在ではカーバメート系殺虫剤とともに,主要な殺虫剤として広く使用されている。…
※「DDT」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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