1871年(明治4)から86年にいたる間の県の長官。廃藩置県直後302を数えた県は,1871年11月一挙に3府72県に統合され,政府任命の地方長官が赴任した。同月公布の県治条例で,県の長官は令(かみ)または権令(ごんのかみ)と称されたが,その後78年の府県官職制で府県長官の称は府知事,県令と統一された。県令は身分的に奏任四等(開港場のある県は勅任三等)に位置づけられ,任免権は太政官が握った。任用にあたっては能力重視がかかげられたものの,実際には西南雄藩の志士層が多く登用された。旧佐幕藩には特にその傾向が強い。福島事件の弾圧者として著名な三島通庸の例のように,県令は新政府の官僚として住民に君臨し,封建体制から近代国家への脱皮政策を強行し,これに反対する農民騒擾(そうじよう)に対しては警察・軍隊の力を背景に弾圧した。県令は県の最高責任者として管内の行政全般を掌握したが,重要行政はすべて大蔵省を中心とする中央各省へ稟議(りんぎ)して許可をえねばならず,専決処分を許された事項についても事後報告の義務を課せられるなど,上級官庁の厳しい統轄下に置かれた。しかし法体系の未整備,通信交通網の不全という条件下で激しい社会情勢の変動にさらされ,臨機の対応を迫られる場合も多かった。1880年には府県会が開かれたが,議会と県令との間には県の行財政をめぐってしばしば対立がおこり,議決不認可や原案執行の事態を招いた。86年7月の地方官官制で県令は県知事となった。
→知事
執筆者:大島 美津子
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1871年(明治4)から86年までの県の長官。71年4月の廃藩置県後302を数えた県は同年11月一挙に72県に統合され、同月公布の県治条例で令(かみ)または権令(ごんのかみ)と称される地方長官が任命された。その後77年の府県官職制で、府県長官の称は府知事、県令と統一された。県令は身分的に奏任官または勅任官とされ、任免権は太政官(だじょうかん)が握った。県令の多くは薩長(さっちょう)を中心とする雄藩の志士出身者で、新政府の官僚として人民に君臨し、封建体制から近代国家への脱皮を図る政策を強引に遂行した。最高責任者として県内の行政事務全般を掌握したが、重要行政はすべて中央各省の許可を必要とし、専任処置を許された事項も報告の義務を課せられた。しかし、法体系の未整備、通信交通網の不全、地域差の残存という状況下で県令の自由裁量の働く余地は後世に比べて強かった。86年の地方官官制により県令は県知事となった。
[大島美津子]
『大島美津子著「地方政治」(福島正夫編『日本近代法体制の形成 上巻』所収・1981・日本評論社)』
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明治前期の県の行政長官の官職名。1871年(明治4)の廃藩置県以後,11月2日の府県官制の改正により全国は府と県に統合され,府の長官は知事,県の長官は令と定められた。廃藩置県後の人事では旧藩主ではなく,赴任先と無関係の者を選ぶことが原則で,とくに幕末維新の功労者が多かった。86年の地方官官制で,府県ともに知事を行政長官とすると改正された。
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…版籍奉還後は藩主をそのまま地方官とし知藩事と称した。71年の廃藩置県によって藩が廃止され全国が府県に編成されて以後,府の長官は府知事,県の長官は県令と称され,その任免権は太政官がにぎった。このころの地方官には西南雄藩出身者が多く,政府の監督下に中央集権政策を強力に遂行した。…
…五代の府州の長官は節度使,防禦使,団練使,刺史のいずれかで,すべて武臣で占められていた。県令は文官であったが,県内に多くの鎮が置かれ,武人の鎮将が鎮内の徴税,軍事警察,獄訟等の実権を握って府州に直属し,県令はまったく無力であった。そこで宋朝は武人の政治組織を打破すべく,文官の県尉に捕盗警察の権をゆだね,鎮将を廃止し,中央政府の官職の肩書を持つ官僚(京朝官,高等官をいう)を派遣して知県事に任じ,県政の振興をはかり,またしだいに節度使以下の武人に替えて京朝官を遣わし,知州事,知府事に任じ,武人の州長は辺境の要地に残されるだけとなった。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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