翻訳|acrobatics
曲技飛行は,飛行技術の研究と厳しい訓練,そしてパイロットの意のままに飛行できる航空機という人と機械の組合せのうえに成り立っている。曲技飛行は飛行機がようやく実用期に入った1910年代の半ばに,パイロットの技量と飛行機の実用性を誇示する空中サーカスという形で登場したが,やがて始まった第1次世界大戦では,敵機の攻撃を回避し,相手を撃墜するための重要な戦技として認められ,急速に発達した。曲技飛行の基本となっている各種のパターンは,ほとんどこの時期に完成している。現在でも曲技飛行は,空中戦に生き抜く手段として戦闘機パイロットの重要な訓練課目になっているが,一方では曲技飛行を体操競技のようにスポーツとしてとらえ,より正確に,より美しく飛行を行う技術を競い合うことも盛んに行われていて,共産圏諸国を含めた世界選手権大会など,いろいろの競技会が世界各地で開催されている。曲技飛行のもっとも基本的なパターンの一つである宙返りや急旋回では,パイロットに大きな遠心力が加わり,パイロットは座席に強い力で押し付けられるほか,血液が足もとのほうに寄って貧血症状を起こし,4G(Gは重力加速度で,4Gの遠心力といった場合,4Gの加速度を生じさせる力に等しい遠心力という意味である)以上の遠心力を受けると目の前は真っ暗になる(ブラックアウト現象といい,血液が下がるのを防ぐためにはGスーツを着用する)。また背面飛行時には,重力が頭の方向に働くから,そのままではパイロットは機体から落ちてしまうので,安全ベルトによって身体を飛行機に固定するが,操縦席内のごみが降ってきて,目や鼻に入り操縦できなくなったということもあり,曲技飛行では通常の飛行では考えられないようなことが発生する。
曲技飛行に使う飛行機は,エンジンの出力に余裕があり,遠心力による大きな荷重(プロペラ機では6G,ジェット戦闘機は8G)に耐えられる強度をもち,背面状態になってもエンジンが燃料切れになったり,オイルが漏れたりしないようになっていなければならない。また,どんな姿勢になっても舵のきく機体である必要がある。曲技飛行中はわずかの操作の誤りでも危険な姿勢に陥る恐れがあり,姿勢を回復できないと事故につながるからである。日本の場合,耐空性基準によって曲技用の飛行機は通常の機体とは区分しており,強度や飛行性について特別な審査を実施している。世界の空軍(あるいは海軍)では,納税者へのサービスと戦技としての曲技を研究するために,曲技飛行チームを編成しているところも多く,アメリカ空軍のサンダーバーズ,同海軍のブルーエンジェルス,イギリス空軍のレッドアローズ,フランス空軍のパトルイユ・ド・フランセなどが有名で,日本では航空自衛隊にブルーインパルスがある。日本とアメリカは4機の少数機による密接した編隊による精密な演技を得意としているのに対し,ヨーロッパのチームは9機あるいは11機という多数機による編隊によって,流れるような隊形転換に力を注いでいるというように,チームによって特徴には微妙な差がある。
執筆者:鳥養 鶴雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
飛行機の空気力学的特性やエンジンの出力を利用した、通常の飛行では行わない飛び方。曲技飛行としては、急降下、急上昇、失速、宙返り、横転、きりもみ、およびこれらの変形や、いくつかを組み合わせた複雑な経路をもつ飛行がある。特殊飛行、アクロバット飛行、エアロバチック、エアロバット、スタント飛行などいろいろの呼び方がある。曲技飛行の歴史は明らかではないが、草創期の飛行機で偶然に行われたのを皮切りに、第一次世界大戦中に空中戦に不可欠の技術として発達し、戦後さらに失業軍人の飛行機ショーとして発展したものといわれている。空中戦の技術としてとくに有名なものは、ドイツのインメルマンMax Immelmannが開発した宙返りと横転を半分ずつ組み合わせたインメルマン・ターンがある。日本では国情から軍人が主体で空中戦を目標に行われたにすぎない。第二次大戦中から空中戦の戦闘方式が変わったため、曲技飛行の技術は第一次大戦のときほど強くは要求されないようになったが、飛行機の性能の限界の追求、あるいは新しい戦闘方式の研究のため、開発部門では当然必要とされた。また曲技飛行を練習、体験することにより飛行機の特性を知り、舵(かじ)の効きや感覚を体得して操縦技術を完全にマスターすることができ、さらに万一、飛行機が異常な飛行状態に陥ったときにも適切な処置をとることができるので、操縦士の実地試験に基礎的な曲技飛行の実施が課せられている。また最近では、軍用機の戦闘方式が変わったので、ふたたび曲技飛行の技術が要求されるようになった。
なお、航空スポーツの種目の一つに曲技飛行がある。飛行機の性能と人間の能力を限界まで使いきることによって、自由自在に飛行機を操り、空を飛ぶ楽しさを存分に味わうとともに、互いにその技術を競い合っており、毎年、FAI(国際航空連盟)主催の曲技飛行世界選手権競技会が開かれている。また、複雑で危険度の高い種目を1機あるいは数機の編隊で演技することによって、自国の飛行技術の水準を誇示できるため、世界の主要な空軍、海軍、民間で、優れた技術をもつ曲技飛行チーム(アクロチーム)が編成されている。
[落合一夫]
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