改訂新版 世界大百科事典 「最少養分律」の意味・わかりやすい解説
最少養分律 (さいしょうようぶんりつ)
law of the minimum nutrient
最少律ともいう。植物の無機栄養説を提唱したJ.F.vonリービヒは〈植物の生育はその植物に供給される諸養分のうち,その量が最少のものに制限される〉という説を唱えた。これはリービヒの最少養分律といわれ,植物の生育を制限している養分は最少養分といわれる。リービヒ以後,マイヤーA.MeyerやウォルニーM.E.Wollnyらによって養分に限らず植物の生育に関係する全因子についてこの説が成立し,最少の因子が生育を制限するとされ,最少律といわれるようになった。
生育制限因子以外の養分や因子がいかに豊富にあっても,植物の生育量は制限因子の量によって抑制されるようすをドベネックDobeneckは樽の一枚一枚の側板の長さとその樽に蓄えられる水の量との関係で示している。樽にためられる水の量,すなわち植物の生育量は最も短い側板の長さによって制限されるというわけである。これをドベネックの要素樽と称している。
この説は植物の収量を増加するには最少養分あるいは制限因子になっているものをみつけ,それを増加することがたいせつであることを理解するのにはよいが,現実に養分や他の生育因子と植物の生育との関係は要素樽から想像されるほど単純ではなく,例えば一つの養分の増加は他の養分や因子の増加や減少をもたらすなどの因子間の相互作用もあって植物生育や収量の増加の問題解決を難しくしている。
執筆者:茅野 充男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報