改訂新版 世界大百科事典 「月とかがり火」の意味・わかりやすい解説
月とかがり火 (つきとかがりび)
La luna e i falò
現代イタリアの作家C.パベーゼの長編小説。1950年4月刊。北イタリアの丘陵地帯ランゲを舞台にし,そこで捨子として育った主人公の〈ぼく〉が,レジスタンス期にアメリカへ逃れ,長じてから聖母昇天祭のころ,故郷へ戻ってきたときの回想の物語。全32章から成り,ブドウ畑に貧しく生きる農民の日常と過ぎ去ったばかりの戦争の傷跡が,パベーゼ独特の神話詩の手法で重層的に書きこまれている。再生の象徴としての月,聖ジョバンニの火祭り,天使の館に逗留(とうりゆう)する主人公,ナチスやファシストの軍隊と激しい報復戦を丘のはざまに展開する抵抗運動,犠牲としての女パルチザン,二重スパイ,火葬の煙など,神話と民俗学の要素が現実の相貌を担って活写される。パベーゼの小説世界の一つの極点であり,発表直後から欧米の文学界に大きな反響を巻き起こしたが,その数ヵ月後に作者が自殺をしたことから,読書界に衝撃を与えた。
執筆者:河島 英昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報