日本大百科全書(ニッポニカ) 「月協定」の意味・わかりやすい解説
月協定
つききょうてい
正式名称は、Agreement governing the activities of states on the moon and other celestial bodies「月その他の天体における国家活動を律する協定」。1979年(昭和54)12月5日第3回国連総会で採択。1984年7月11日発効。前文と21か条。宇宙条約に全面的に依拠し、かつ月の天然資源の開発という新分野について定めた。天然資源問題についての条約交渉は、とくに旧ソ連と開発途上国側との対立によって難行した。協定の基本的な構造としては、まず第一に協定は月に対する国家の領有権、所有権などを禁止する月の法的地位と、月における法秩序の大きな枠組みを置いた。第二にこの枠組みのなかで、協定は月活動についての基本原則を定め、具体的な月探査・利用活動のおもなものについて規定した。第三に協定は、初めて月の天然資源開発について定め、その中核となる国際レジーム(国際的制度)については、その基本的性格について大枠を定め、ほかは将来の発展にゆだねた。最後に協定は、月の非軍事化を定め、非軍事化条項と査察・協議のための条項を置いた。
[池田文雄]
協定の概要
(1)協定の適用範囲 この協定の月に関する規定は、地球以外の太陽系の他の天体にも適用される。ただし、太陽系の他の天体については、たとえば火星について特別法ができれば、それによることとなる。
(2)月の法的地位と月における法秩序 月は国家による取得の対象とならず(領有権の禁止)、月に所在し埋蔵されている天然資源は、国家などの所有に帰属せず、月とその天然資源は、人類の共同財産である。月での活動については、国家が責任を負い、要員、宇宙機、設備、基地、施設に対し国家が管轄権をもつ。
(3)月活動の基本原則 月の探査と利用は、全人類の活動分野であり、万国の利益のために行われる(月探査利用原則)。月の探査と利用は、平等で自由であり、国際法に準拠し、かつ国際協力と相互援助の原則に従う。月活動は国際法に従うとともに、国家間の友好関係原則宣言を考慮し、他国の利益を無視してはならない。科学的調査は平等で自由である。
協定は、「科学的調査」と協定の実施という制約を置いたうえで、月の鉱物その他の物質のサンプルを採取する自由を認めた。つまりサンプルは、採取した国の処分に任され、科学的目的のために使用される。さらに協定は、要員の交流を促し、宇宙物体の月着陸、月からの宇宙物体の打上げ、要員、宇宙機、設備、施設等の移動の自由を認め、月面上に有人または無人の基地を設置することを認めている。月の探査利用にあたっては、月の環境を保護するとともに、特別な保護取決めの下に置く国際的科学的保存地域を指定できる。月の探査、利用活動、月ミッション、危険現象について最大限の情報を提供する。協定は、月にいる者の生命と健康を保護する措置を義務づけ、遭難者に対し自国の基地、施設等で保護を与えるものとし、遭難宇宙機の本国への引渡し、有害宇宙物体の通知、危害除去、費用償還、不時着通報などについて定めた。
(4)天然資源の開発 月の天然資源の開発は、月協定の最大の問題で、「月及びその天然資源は、人類の共同財産である」(第11条2項)という概念をめぐって、実に10年間にわたり激しく争われた。結局のところ、この概念の内容は、月協定自体に定める実質的権利義務の総体に等しいということになり、将来設立されるであろう国際的レジーム(国際的制度)において実現されるものとしている。したがって国際的レジームの設立が焦点となるが、その設立の時期については、月の天然資源の開発が実行可能となったときと漠然と規定するのみで、すべてを将来にゆだねた。国際レジームのおもな目的は、月の天然資源の秩序ある安全な開発、合理的な管理、使用の機会の増大および利益の公平な分配にあるとされるが、これは同時に将来設立されるべき国際レジームの枠組みを定めたものといってよい。
(5)月の非軍事化 月は平和目的のためにのみ利用され、いかなる軍事利用をも許さない。これは天体の非軍事化を定めた宇宙条約の規定を受けたものである。月協定は、これに加えて武力による威嚇、武力の行使、その他の敵対行為などを禁止した。
この非軍事化を担保するための査察について、月協定は、宇宙条約中の査察条項を受け継ぎ、その主要部分を再生しているが、査察の要件から相互主義を削り、協議やその他の紛争解決の平和的方法を持ち込んだ点は、宇宙条約の場合と比べて大きな改善であるといえよう。
[池田文雄]