有機酸血症

内科学 第10版 「有機酸血症」の解説

有機酸血症(先天性アミノ酸・尿素回路および有機酸代謝異常症)

(4)有機酸血症(organic acidemia)(図13-3-15)
 分岐鎖アミノ酸イソロイシンロイシンバリン)は必須アミノ酸で,経口摂取量の75%が蛋白合成に利用される.余剰の分岐鎖アミノ酸は分解され,TCA回路に入ってエネルギーを産生する.有機酸血症とは,アミノ酸,糖質,脂質の代謝過程の異常のため,有機酸やその誘導体が体内に蓄積する疾患の総称である.有機酸の蓄積による代謝性アシドーシスを主症状とする.個々の有機酸血症の症例数は少ないが,種類が多いので,全体としての頻度は1万人に1人以上といわれる.ここでは代表例のメープルシロップ尿症(maple syrup urine disease)について述べる.定義・概念 分枝鎖α-ケト酸脱水素酵素(branched chain α-ketoacid dehydrogenase:BCKD)の異常により,血中ロイシンの上昇と,尿中の有機酸(分岐鎖α-ケト酸,分岐鎖α-ヒドロキシ酸)が増加する.有機酸の蓄積により,高度な代謝性アシドーシスを示し,乳児期より,哺乳力低下,意識障害,痙攣,後弓反張位,無呼吸などを呈する.また,尿や汗などが,特有の臭気(メープルシロップ様)を呈する.病態生理 BCKDは酵素複合体でミトコンドリア内膜に存在し,E1(脱水素酵素;E1α,E1β),E2(リポイルトランスアセチラーゼ),E3(ジヒドロリポイル脱水素酵素)と,キナーゼホスファターゼ(活性化ビタミンB1)の6つの蛋白から成り立っている.複合体の欠損によって,分枝鎖α-ケト酸が分枝鎖アシルCoAに代謝されずに蓄積する.
 古典型のメープルシロップ病はアメリカのメノー派とよばれる宗教団体で高頻度にみられ,E1αサブユニット遺伝子における変異(Try393Asp)のホモ接合体である.しかしながら,本疾患においては,BCKDが複合体を形成するため,各サブユニットを構成する遺伝子上多くの種類の変異が報告されている.発症頻度は全世界的には18.5万人に1人であるが,わが国では約67万人に1人と少ない.
 発症時期と重症度によって,古典型,間欠型,中間型,チアミン反応型,E3欠損症などがある.古典型は,E1α,E1β,E2の変異でみられ,酵素活性が高度に障害(2%未満)されている.間欠型(E2の変異)は,比較的酵素活性が保たれており,初期の発達は正常であるが,感染症などを契機に発症する.チアミン反応型はチアミンの薬用量の投与により改善する.中間型では,酵素複合体の活性が3~30%で,初期の成長には異常がなく,臨床的にも健康であるが,蛋白質を含む食品を食べると発症する.鑑別診断 新生児スクリーニング時,血漿のロイシンの値が4 mg/dL以上はすぐに精査を行う.ただし,間欠型やチアミン反応型ではこの値より低値を示すことがある.診断には血漿アミノ酸分析における分岐鎖アミノ酸の増加と,尿中有機酸分析における分岐鎖α-ケト酸,分岐鎖α-ヒドロキシ酸の増加などの所見により可能である.遺伝子解析を行うには,BCKDを構成するすべての酵素の変異を検討する必要があり,また,日本人に頻度の高い特有の変異は検出されていないため,一般的には行われていない.
治療
 分枝鎖アミノ酸はほとんどの蛋白質に含まれているので,分枝鎖アミノ酸除去ミルク,医療用食品を利用し,低蛋白食とし,エネルギーを十分に投与する.目標は,乳児が正常な成長が行えるようにし,また,神経毒である分岐鎖ケト酸の蓄積を防ぐことである.[中屋 豊]
■文献
Behrman RE eds: Nelson Textbook of Pediatirics, 17th ed, pp. 397-398, 2396-2427, Elsevier, 2006.
Saheki T, Kobayashi K, et al: Reduced carbohydrate intake in citrin-deficient subjects. J Inherit Metab Dis, 31: 386-394, 2006.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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