本態性振戦(読み)ホンタイセイシンセン

デジタル大辞泉 「本態性振戦」の意味・読み・例文・類語

ほんたいせい‐しんせん【本態性振戦】

《「戦」は「顫」の書き換え》字を書いたり物を持ったりするときに手が震える症状原因ストレスともされるが不詳。高齢者に多い。症状を軽減するためにベータ遮断薬が使われることがある。→振戦

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

内科学 第10版 「本態性振戦」の解説

本態性振戦(錐体外路系の変性疾患)

(4)本態性振戦(essential tremor)
概念
 原因不明の振戦を主訴とする疾患である.本態性振戦では振戦は手指に最もよくみられ,頸部振戦や音声振戦もみられる.単一疾患というよりは疾患群の中の1つと理解される.
疫学
 有病率は不明.欧米では家族歴を有することが多いがわが国では家族歴は少なく,孤発例が多い.通常40歳以降に発病する.欧米での有病率は,厳格な診断基準に従ったものでは人口の0.4~3.9%との報告がある.40歳以上に限れば4~6%と理解され老齢者には珍しくない.
病因と危険因子
 多くの研究は有病率と発現率ともに年齢とともに増加することを示している.人種ではアフリカ系アメリカ人に多いことが報告されている.コーカソイドの頻度はアフリカ系アメリカ人の5倍との報告もある.半数ないしそれ以上の患者は遺伝歴を有すると理解されているが報告でのばらつきは大きい.患者の半数以上は遺伝歴をもたないとも報告されている.疾患の原因遺伝子同定さていないが2つの遺伝子にリンクの可能性が報告されている.
病理
 確立された病理所見はない.
病態生理
 振戦は骨格筋が,作動筋と拮抗筋が相反性,律動性に収縮することにより生じる.姿勢時に出現する振戦が特徴である.振戦発現の機序は中枢性か末梢性かは不明である.
臨床症状
 本態性振戦の振戦は通常,上肢に出現する.頭部振戦との合併例が多く34~53%との報告があるが,頭部振戦だけでは1~10%といわれる. 臨床表現型を表15-6-10に示す.症状は姿勢時(両上肢を水平に保持するなど)に出現する8~12 Hzの細かい振戦を特徴とし,ほかの神経症状は伴わない.しかし,静止時振戦は18.8%に認めるとの報告もある.遅い姿勢時振戦は企図振戦となる.また,手指,頭部の振戦が多い.書字の際に手が震えて書字困難なものは書家振戦(writer’s tremor)とよび,本態性振戦の臨床型の1つである.書家振戦は書痙とは異なり,書字以外にも振戦が出現することがある.頸部振戦は首を左右に振るもので,この症状のみで独立して出現し,高齢者に多い.起立性振戦は起立時に下肢と体幹がガタガタと大きく揺れたり,震えたりする.歩行時,坐位臥位では消失する特徴がある.音声振戦は本態性振戦に特徴的なものである.アルコール摂取により振戦が消失することが多いがこの原因は不明である.振戦は本態性振戦に限らず,肉体的疲労,精神的緊張,発熱により通常増強される.
予後
 一般には緩徐進行性であり,書字,食事,業務などの日常生活に支障をきたすようになる.
検査成績
 診断に参考となる特有な検査はない.
診断
 症状を参考として,甲状腺機能亢進症などの鑑別診断を行う.除外診断となる(表15-6-11).まれに本態性振戦は後にParkinson病を発病することがある.表15-6-12に本疾患とParkinson病の症候の差異を示す.
治療
 α,β遮断薬であるアロチノロールの有効性が確認されている.β遮断薬であるプロプラノロールも有効である.抗てんかん薬であるプリミドン,クロナゼパムも使用されることがある.激しい振戦で薬物抵抗性の場合は深部脳刺激の適応対象となる.[山本光利]
■文献
Deuschl G, Bain P, Brin M: Consensus statement of the movement disorder society on tremor. Ad Hoc Scientific Committee. Mov Disord, 13 (suppl): 2-23, 1998.岩田 誠:神経症候学を学ぶ人のために,pp130-132,医学書院,東京,1994.Louis ED: Essential tremor. Lancet Neurol, 4: 100-110, 2005.
山本光利:老年者の症状別診断ポイント 振戦.老年医学,37: 179-181, 1999.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

家庭医学館 「本態性振戦」の解説

ほんたいせいしんせんろうじんせいしんせんかぞくせいしんせん【本態性振戦(老人性振戦/家族性振戦) Essential Tremor】

[どんな病気か]
 50歳以上の人にみられる震(ふる)えで、からだのどこにでもおこりますが、通常は、片側の手、ついで腕、反対側の手、腕と伝わっていくことが多いようです。発症に男女差はありません。
 頭やくびの震えで始まることもありますが、この場合は、自分よりも周囲の人に指摘されて気づくことが多いようです。少量の飲酒で、これらの症状が軽くなることがあります。
 原因は不明ですが、血のつながった家族にも同じ症状の人のいるケースがあるので、遺伝性の要素があるのかもしれません。
 パーキンソン病とまちがわれることがありますが、パーキンソン病とはちがい、筋肉がかたくならないこと、方向転換時に倒れたりする姿勢反射異常がないことで明確に区別がつきます。
[治療]
 β遮断薬(ベータしゃだんやく)(ブロッカー)のプロプラノロールを内服します。抗けいれん薬のプリミドン(マイソリン)が有効なこともあります。
 一般的には、日常生活に悪影響をおよぼすことはほとんどないのですが、震えがきわめて強く、薬が効かず、日常生活に支障のある場合は、定位脳手術(ていいのうしゅじゅつ)(コラム「定位脳手術」)により、脳の一部を破壊する外科的な治療法もあります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

《「晋書」杜預伝から》竹が最初の一節を割るとあとは一気に割れるように、勢いが激しくてとどめがたいこと。「破竹の勢いで連戦連勝する」[類語]強い・強力・強大・無敵・最強・力強い・勝負強い・屈強・強豪・強...

破竹の勢いの用語解説を読む