デジタル大辞泉 「振戦」の意味・読み・例文・類語
しん‐せん【振戦】
[補説]姿勢時振戦(字を書く時などに軽度に手がふるえる)や本態性振戦(原因不明で主に手や足が速く細かくふるえる)は高齢者に生じることが多い。安静時振戦(睡眠時など筋肉安静時に生じる荒くゆっくりとしたふるえ)はパーキンソン病の主症状の一つとされ、大脳基底部の神経細胞障害によるものとされる。脳血管障害など脳疾患の後遺症として生じる場合は、大脳の一部に電極を埋め込む脳深部刺激療法(DBS)などの治療が行われる。
一般にいう「ふるえ」のことで、規則的なリズムを保って周期的に繰り返される不随意的な律動性の小刻みな振動をいう。震顫とも書く。伸張刺激により突然の筋収縮を起こす筋クローヌスや、錐体(すいたい)外路が障害され不規則な動きを呈する舞踏運動などの非律動性の不随意運動とは異なる。健常者でもふつうに生理的振戦はみられるが、病的なものはその振動の現れかたにより、静止時振戦、動作時振戦、姿勢時振戦などに分けられる。
静止時振戦は筋運動の静止時に出現する緩慢なふるえでパーキンソン病によくみられ、強度の場合は手指に特徴的な丸薬丸め運動(振戦)として現れる。睡眠時に現れることもある。動作時振戦は運動時振戦ともよばれ、随意的に運動を起こそうとしたときにだけ現れ、運動静止時や睡眠時には消失していることが多いのが特徴である。しかし寝返りなど睡眠時の体動に伴ってみられることもある。また姿勢時振戦は姿位振戦ともよばれ、随意的に一定の姿勢を保とうとするときにだけ出現し、たとえば上肢を前方にあげたまま姿勢を保とうとすると手指や上肢に軽いふるえを伴うものなどである。姿勢時振戦はしばしば動作時振戦と同時に現れ区別のむずかしい場合もある。ほかに意図的な動作を行おうとしたとき、ゆっくりしたふるえがみられる企図振戦があるが、定義があいまいなためこの用語はあまり使われない。さらに羽ばたき振戦の用語もあり、振戦に似ているが鳥が羽ばたくように手や腕が動く運動を伴うものである。
振戦の原因としては、甲状腺ホルモンの産生が過剰となる甲状腺機能亢進(こうしん)症、アルコールの中止による禁断症状、特定の薬剤の使用や中止、毒物の服用、ほかに疲労やストレスおよび不安などがあげられる。
[編集部]
振顫,震顫とも書く。震えの一種で,ほぼ一定の周波数をもった身体一部の不随意的かつ無目的な振動をいう。精神的緊張や筋肉疲労時に生ずる細かい手指の振戦は生理的振戦と呼ばれ,病的なものではない。病的な振戦には安静時振戦と動作時振戦がある。前者はパーキンソン症候群でよく認められ,通常5Hz前後の粗大な振戦で,手指に生じることが多く,丸薬まるめ運動などと形容される。後者はさらに体位振戦と運動時振戦に分けられる。体位振戦は,体肢を一定の位置に保ち骨格筋の等尺性収縮を行う際にみられる。運動時振戦は随意的な等張性筋収縮に伴って生じるもので,体位振戦の高度なもの,企図動作性ミオクローヌスによるもの,測定異常に伴う体肢の揺れの3種類がある。ウィルソン病,多発性硬化症,中脳・小脳疾患で認められる。肝性脳症では,横に広げた手がちょうど鳥の羽ばたきのように瞬時落下する羽ばたき振戦も知られている。
執筆者:水沢 英洋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…しかし,この過動症と無動症はけっして対立するものではなく,一つの疾患のなかで共存することもある。たとえばパーキンソン症候群は大脳基底核がおかされる病気であるが,無動症のために随意運動が行えないのと同時に,手足の振戦(震え)という過動症が加わって,いっそう重篤にしている。大脳基底核の病変では,これ以外に種々の姿勢異常や筋緊張の変化などが生じることが知られている。…
…身体の一部または全部が不随意的に律動的運動を起こしている状態のことで,一般にはかなり広範な意味で用いられている。すなわち,寒冷や発熱時の全身の震えshivering,緊張,興奮時の手足の震え(生理的振戦),不随意運動症としての震え(病的振戦),さらに癲癇(てんかん)による痙攣(けいれん)発作convulsionまでも含めて考えられていることがある。しかし震えということばを医学的に振戦tremorに相当することばと解すれば,全身の震えや痙攣発作は,これとはまったく異質のものであり除外して考える必要があろう。…
※「振戦」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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