東アジア共同体構想(読み)ひがしあじあきょうどうたいこうそう(その他表記)East Asian Community Initiative

日本大百科全書(ニッポニカ) 「東アジア共同体構想」の意味・わかりやすい解説

東アジア共同体構想
ひがしあじあきょうどうたいこうそう
East Asian Community Initiative

タイ、インドネシアマレーシアシンガポールなどのASEAN(アセアン)(東南アジア諸国連合)と日本、中国、韓国が中心となり、経済・金融、政治、安全保障などの分野で連携を深め、地域統合を進めていく構想。域内関税の撤廃、人的往来の自由化、共通通貨の導入など、ヨーロッパ連合EU)のような単一地域経済圏の創設が最終目標である。2002年(平成14)に当時首相であった小泉純一郎が東南アジア歴訪で初めて東アジア共同体構想を提唱。2005年に、ASEAN各国に日本、中国、韓国、インド、オーストラリアニュージーランド首脳が参加した東アジア首脳会議EAS)で、東アジア共同体創設を目ざす「クアラルンプール宣言」を採択した。東アジア共同体が実現すれば、人口20億~30億人、域内総生産(GDP)で7兆~8兆ドルという世界最大の経済圏が誕生する。しかし東アジア共同体の参加国をどの地域までにするかなど基本的な枠組みが決まっていない。また東アジア圏には資本主義国家と共産主義国家が併存するうえ、経済成長度合が大きく異なり、さらにヨーロッパ大陸と異なり島嶼(とうしょ)部が多いこともあって、統合の歩みは遅く、内容も緩やかなものになるとみられている。

 東アジアの地域統合については、1990年代にマレーシアの首相マハティールが提唱した東アジア経済協議体(EAEC)構想などがあったが、アメリカの反対で実現しなかった経緯がある。東アジア共同体と類似の構想として、2012年からASEANに日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドを加えて自由貿易圏をつくるRCEP(アールセップ)(東アジア地域包括的経済連携)構想が進んでいるほか、2018年12月には東アジア共同体と参加国が重なる環太平洋地域の11か国によるTPP(環太平洋経済連携協定)が発効した。このため、東アジア共同体に関する議論は低調である。

[矢野 武 2019年6月18日]

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知恵蔵 「東アジア共同体構想」の解説

「東アジア共同体」構想

東南アジア諸国連合(ASEAN)の10カ国と日本、中国、韓国の3カ国を中核に、貿易・投資・金融から政治・安全保障まで幅広い分野での地域統合を視野に入れた地域共同体構想。1990年代後期のアジア通貨危機の教訓やその後の欧州連合(EU)の拡大、北米自由貿易協定(NAFTA)など地域主義への対抗が背景にある。韓国の金大中(キム・デジュン)元大統領や小泉元首相が2001年に提唱。05年12月、マレーシアで初の東アジアサミットが開かれた。この首脳会議にはASEAN+3(日中韓)のほか、中国を牽制したい日本などの働きかけで「民主主義の価値観を共有する国」としてインド、オーストラリア、ニュージーランドが参加。だが、中国は共同体建設をASEAN+3中心に進めるべきだと主張するなど、日中の思惑がかみ合わなかった。結局、このサミットではASEAN+3を「共同体達成の主要な手段」とし、東アジアサミットを「共同体形成で重要な役割を果たす」と規定することで調整が図られた。第3回サミットは07年11月にシンガポールで開かれ、初めて温暖化対策問題も議題になった。多様なアジアの共同体形成には、こうした共通の課題に取り組みつつ息の長い対話を重ねて論議を深める必要がある。

(片山裕 神戸大学教授 / 2008年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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