日本大百科全書(ニッポニカ) 「林業機械」の意味・わかりやすい解説
林業機械
りんぎょうきかい
森林において木材その他林産物を伐採収穫し、搬出利用するのみならず、伐採跡地(あとち)に苗木を植栽し、保護育成するほか、治山・林道工事、森林の維持・管理・連絡などに使われる機械類の総称。森林機械ともいう。日本、アメリカ、カナダ、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、ドイツ、オーストリア、ニュージーランド、オーストラリア、ロシアなどの諸国の林業地では、機械化によって条件の悪い森林内での労働生産性を向上させると同時に、労働の安全を図るため数多くの種類の林業機械が使われている。
大別して、木材の伐採・搬出・貯材などに使われる伐木集運材貯材機械、苗木の育成生産や植林・病虫害防除などに使われる造林保護機械、さらに治山林道工事用機械ならびに森林管理連絡用機械に分けられる。このうち、伐木集運材貯材機械および造林保護機械のなかに、林業機械独自の構造と性能を要求されるものが多い。また山岳林であるか平地林であるかによって、要求される林業機械の構造・性能も異なる。
[山脇三平]
伐木集運材貯材機械
立木(りゅうぼく)の伐倒(ばっとう)、枝払い、玉切(たまぎり)には1人用ガソリンチェーンソーが世界中で使われ、日本においても、林業のみならず薪(まき)切り、シイタケ原木の生産、庭園樹・街路樹の整枝など農家・造園緑化関係における木材鋸断(きょだん)にも高能率な点から広く使われている。平地林の伐採には、クローラー(キャタピラー)かホイール(タイヤ)の足回りをもったトラクター式伐倒機(ツリーフェラー、フェラーバンチャー)やトラクター式伐倒収穫機(ツリーハーベスター、ティンバーハーベスター)が使用される。平地林は林内で、山岳林は林道端で、トラック搭載型やパワーショベルの足回りをもった枝払玉切機(ティンバープロセッサー)が使用される。また運転席背後のトレーラーとの間に搭載した自載用クレーンを使って玉切材をトレーラーに積み込み、林内・作業道・林道上を木材搬出するホイール型フォワーダーか、まれにクローラー型の足回りをもつフォワーダーが、ワンマンコントロールの多工程同時処理機械として使われている。
山岳林の集運材では、集材機による各種の索張り方式を利用した架空線集材や林業索道が盛んに使われてきた。日本、アメリカ西海岸、ノルウェー、オーストリア、スイスなどでは普通型、リモコン型、自走式など各種の集材機や搬器が考案使用されてきた。集材機は動力ウィンチの一種で、単胴から数胴の巻胴の回転速度・制動力のいずれもが特別高速・強力に設計され、軽量でコンパクトな構造となっている点に最大の特徴があり、ヤーダーともいわれる。海外では、トラックやトラクターに搭載した移動式集材機(モービルヤーダー)が普通である。日本でも、タワーヤーダーとよぶ移動式集材機が普及している。日本では、間伐材や択伐材を搬出するため、稚幼樹や残存木を傷めずに、森林内の中空か上空にケーブルを、架設・撤去しやすいように上手に張って集材する方法に、熱心な改良考案が加えられてきた。また、林内急斜面に鋼製簡易レールを敷設して、エンジンカーがトレーラーを跨乗(こじょう)式に牽引(けんいん)して木材その他資材・人員等を搬送するモノレールも実用に供されている。平地林では、後部に木材の先端を半載化して地引き集材するクローラースキッダー、ホイールスキッダーが使われる。日本の山岳林でも、作業道を敷設して、クローラースキッダーやホイールスキッダー、林内作業車(フォワーダーの一種)とよばれる小型木材運搬車が使われている。また集材以前の木寄せの工程で、間伐材や林地残廃材などの小径材の搬出に役だつ無線操縦式小型ウィンチが、日本、スウェーデンなどで使われてきた。運材には、日本のみならず多くの国で運材トラックを使用している。日本は林道の曲線に急勾配(こうばい)箇所が多く幅員も狭いので普通型トラックが多いが、海外林業国の運材は、運材専用トレーラートラックによるのが普通である。奥地山岳林の大径択伐材の搬出には、荷吊(つ)りウィンチを搭載したヘリコプターが使われる。
森林鉄道上を運材トロを牽引するディーゼル・ガソリン・蒸気などの林鉄機関車を使っている国もある。
[山脇三平]
造林保護機械
苗畑(なえはた)では、日本は2、3年の年数をかけて植林用の山出し苗を育成している。面積数ヘクタール以下の小規模苗畑では二輪耕うん機を、約10ヘクタール以上の大規模苗畑では農耕用四輪トラクターを主機に、耕うん、砕土、堆肥(たいひ)散布、鎮圧、床(とこ)造り、施肥、播種(はしゅ)、除草、薬剤散布、土壌消毒、根切り掘取り、床替(とこが)えなどの各種作業機を交換牽引して、一貫した機械化苗畑作業の実行が可能となっている。とくに根切り掘取り機、床替機は林業独特の作業機で、独自の考案が行われている。
苗木以上に成長する雑草を刈り払う下刈り作業に使う1人用可搬式機械に、傾斜の急な山岳林でも使える刈払(かりはらい)機がある。これは林業のみならず、農業の稲刈り、畦道(あぜみち)の草刈りのほか、河川の堤防、道側、庭園の草刈りなどにも広く使われ、携行形電池を採用した電動刈払機の生産が漸増傾向にある。これらのガソリン・電動刈払機は、チェーンソーとともに欧米諸国・中国などに輸出されている。苗木植え付け用の1人用植穴掘(うえあなほり)機も考案された。平地林の地ごしらえ、下刈り作業には、トラクター付属の作業機として、林業用として高強度の構造をもたせたロータリーカッター、フレイルモーアが使われたほか、数十馬力のエンジンを搭載したシュレッダーと称する小径木・末木枝条(すえきしじょう)粉砕機も使われた。日本では植穴掘りにトラクター付属アースオーガーも実用に供された。欧米の大陸平地林ではトラクター付属プランターが使われる。立木の下枝を樹幹すれすれのところから枝打ちして、無節で高価な住宅用柱材(はしらざい)の生産に役だてることのできる無線操縦式自動木登り枝打機も、国産化され使われた。
森林に発生した病虫害の防除には、散粉あるいは噴霧装置を搭載したヘリコプターあるいは低速飛行機が広く使われている。森林火災の防火には、水嚢(すいのう)や消火剤をつり下げたヘリコプターが広く使われている。
なお、治山林道工事用機械としてはブルドーザー、削岩機、クラッシャー、バックホウ、大小各種のパワーショベルなどの建設機械があり、森林管理連絡用機械には自動車、雪上車、ヘリコプター、携帯電話・無線電話装置施設、テレビ装置施設、パーソナルコンピュータ、測量機器などがある。
[山脇三平]