日本大百科全書(ニッポニカ) 「トラクター」の意味・わかりやすい解説
トラクター
とらくたー
tractor
牽引(けんいん)車両のことをいう。農業用、建設用などがあるが、本項では、おもに農業用トラクターについて述べる。
農業用トラクターは、作業機を装着して牽引したり、駆動しながら作業を行う。現在のような4輪トラクターは1917年にヘンリー・フォードによって製造され、その後、作業機を駆動するための動力取出し軸(PTO軸)、ディーゼル機関の搭載、空気タイヤの装着、作業機を取り付ける3点リンク機構が装備され、機構的、構造的に本格的なトラクターとなった。その性能・機能は、エンジンの防振対策、前方視野の改善、各種作業に適応するための多段変速化や自動変速機構、前後進の切替えのできるシャトル変速機構等の採用と、時代とともに向上している。
日本では大正末期ごろに外国製のトラクターが導入されたが、北海道での開墾などに利用されただけであった。第二次世界大戦後、1950年(昭和25)ごろから歩行型トラクターが国産化され、急速に普及した。1960年ごろから、農業従事者の他産業への流出により、能率の高い乗用型の4輪トラクターの普及をみた。
農業用トラクターの種類は、走行装置によって、車輪式(ホイール式トラクター)、装軌式(クローラー式トラクター。キャタピラー式ともいう)、半装軌式(セミクローラー式トラクター)に分けられる。車輪式は機動性に富み、もっとも普及している方式である。一般に歩行型トラクターは耕うん機とよばれ、乗用型トラクターがトラクターとよばれている。
トラクターには後輪だけを駆動する2輪駆動トラクターと、前後輪とも駆動する4輪駆動トラクターとがあり、4輪駆動がもっとも多く使用されている。装軌式トラクターは、牽引出力が大きいこと、接地圧が低いことにより、深耕用プラウの作業や柔軟地での作業に利用されている。半装軌式トラクターは4輪駆動式トラクターの後輪部分をクローラーにしたもので、湿田等での走行性改善のために使用されている。
特殊なトラクターには、重心位置が低く転倒しにくい傾斜用トラクター、トラクターとトラックの中間的構造をしたツールキャリアーなどがある。
作業安全の面では、トラクターの転倒事故に際しオペレーターの死傷を防ぐ重要な手段として、安全キャブ(運転室)や安全フレームの装着がある。いずれもトラクターに適合した製品を選択し、装着することが重要である。安全キャブには転倒事故による死傷防止に加え、防音、防振、雨よけ、防寒、防暑、防塵等により、オペレーターの快適作業を可能にする効果もある。
なお、農業用以外のトラクターには、建設用のブルドーザー、ホイールローダー等があり、特殊なものでは空港で航空機を牽引するトーイングトラクターなどもある。
[八木 茂]