栄養剤(読み)えいようざい

改訂新版 世界大百科事典 「栄養剤」の意味・わかりやすい解説

栄養剤 (えいようざい)

栄養の不足を補い,アンバランスを調整するために服用する薬を総称していう。一般にはビタミン剤,アミノ酸製剤ミネラル製剤,滋養強壮剤のことをさすが,広義には一般輸液,高カロリー輸液,宇宙食や外科栄養法に用いられる成分栄養剤elemental dietも含まれる。いわゆる栄養ドリンク剤は,疲労回復のため,また健康保持,体力増強,さらに強健になることを望んで服用されており,日本人の薬好きを反映し,消費量も,清涼飲料水に分類されているものも加えると年間数十億本にのぼる。

 日本の栄養ドリンク剤は,第2次大戦中の〈航空戦略増強液〉が始まりといわれている。これは出撃していく航空兵のためにつくられたもので,瓶の中に入っていた成分は,ビタミンB1,糖みつ,クエン酸,それに覚醒剤などであった。現在ではもちろん覚醒剤は配合されていないが,その他の成分はほぼ同じである。今日では,ビタミン類,ミネラル,アミノ酸カフェインアルコールなどが配合されている。ビタミンやミネラルなどは,ふつうのバランスのとれた食生活をしていれば,日常の食事で十分摂取できるが,極端な偏食や不自然な食生活を長く続けたり,長い病気で体力が衰えた場合ではビタミン欠乏症がみられる。このほか長期間抗生物質を服用したときも,ビタミンB群の欠乏になりやすい。このようなときにはビタミンの補給が有効であり,各種ビタミンを混合した総合ビタミン剤などが用いられる。しかし,脂溶性ビタミン(ビタミンA,D,Kなど)を過剰に摂取すると肝臓に蓄積され,食欲不振,嘔吐をともなう胃腸障害をおこす。とくに乳幼児では発育障害をおこすことがあるので有害である。水溶性ビタミン(ビタミンB群やC)は,そのような蓄積性はないが,過剰に摂取しても速やかに尿中に排出されてしまうので,経済的にみた場合水溶性ビタミンの過剰摂取は不経済である。

 カルシウム剤妊産婦にとって有効な薬である。日本の土壌はカルシウム分が不足しているため,水道水は軟水である。このため日本の水は,そのまま飲んでおいしいし,セッケンも使える。また,最近は小魚など骨のあるものを食べることが少なくなっているので,カルシウム不足の病気になりやすくなっているともいわれている。とくに妊産婦は胎児にカルシウムを奪われるので,カルシウムの補給が有用である。アミノ酸製剤は,胃腸に負担をかけないで必須アミノ酸やそれ以外のアミノ酸を栄養補給できるので,病後の回復期,食欲減退,消化器疾患時などに栄養剤として服用される。

 栄養剤,とくにスタミナ・ドリンク剤のほとんどは効能肉体疲労をあげている。おそらく服用する人のほとんどは疲労回復を目的としていると思われる。疲労は,大きく肉体疲労と精神疲労に分けられる。疲労の種類・原因により栄養剤の効果も変わってくる。激しいスポーツや肉体労働で急激に体力を消耗したときは,吸収されやすい糖分とビタミンをとることが効果的である。はちみつや果糖などの糖分は速やかに吸収されて,低血糖状態を回復させる。また,体内で糖分がエネルギーに変わるとき,ビタミンB1が消費される。単に糖分をとっただけではビタミンB1不足になり,疲労物質(乳酸)が蓄積され,かえって疲れやすくなる。ビタミンCは副腎をじょうぶにし,ストレスに対する抵抗力を高める働きもある。慢性肉体疲労の場合には,新陳代謝を盛んにするビタミン,ミネラルとともに,アミノ酸の補給もたいせつである。

 精神疲労に対しては,栄養剤もその効能にあげていない。すなわち,栄養剤は精神疲労には効かないということである。精神疲労には十分な休息と気分転換がたいせつであろう。一般的な疲労は,バランスのとれた食事と十分な睡眠でかなり回復するが,栄養剤は使用に際し,疲労の種類により選択することが肝要である。薬はもともと病気の人が治療のため服用するものであるが,いわゆる保健栄養剤は健康な人が疲労回復,体力増強のために服用するものである。栄養剤も誤用や乱用によりいろいろな副作用や弊害があり,特別な効果を期待できない薬であるので,これを過信して不摂生をするのは愚かといえよう。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「栄養剤」の意味・わかりやすい解説

栄養剤
えいようざい

栄養の不足を補うために用いられる薬剤。日本標準商品分類では滋養強壮変質剤となっている。栄養素にはタンパク質、脂肪、炭水化物、ビタミン、無機塩類があり、このうち微量で有効なのがビタミンと無機塩類である。脂肪、炭水化物は主としてカロリー源となり、タンパク質はアミノ酸に分解されてふたたび生体のタンパク質を構成する。したがって炭水化物、脂肪、タンパク質は食物として摂取するのが普通であり、一般的に栄養剤は各種ビタミンを主とし、それに微量の無機物を添加したものが用いられる。

 ビタミン類のほか、アミノ酸やタンパク分解物、生体成分が用いられるが、カロリーの補給にはある程度の量が必要であり、少量の薬剤では栄養そのものを補うことはできない。そこで経口的に食物が摂取できない場合には、牛乳や卵などの栄養価の高い食品を液状のまま直腸に注入する栄養浣腸(かんちょう)や、経管栄養といって鼻腔(びくう)から食道を経て胃までチューブを挿入して直接栄養剤を注入する方法がある。そして経管栄養(成分栄養剤)にはアミノ酸、糖、ビタミン、無機塩類を適量含有する薬剤が用いられ、エレメンタル・ダイエットと称して完全に吸収されてしまう栄養剤がつくられるまでになった。一方注射剤としても、体液より浸透圧を高くしたアミノ酸と糖にビタミン、無機塩類を加えたものが使われ、さらに脂肪乳剤の点滴静脈注射が可能となり、高カロリー栄養輸液が完成した。

[幸保文治]

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