根頭癌腫病(読み)こんとうがんしゅびょう(その他表記)crown gall

改訂新版 世界大百科事典 「根頭癌腫病」の意味・わかりやすい解説

根頭癌腫病 (こんとうがんしゅびょう)
crown gall

土壌中に生息する細菌の1種Agrobacterium tumefaciensによって起こる植物のこぶ病の一つ。カキブドウ,モモ,リンゴ,ナシ,クリなどの果樹,バラ,樹木など多種の植物を侵し,世界中で発生する。こぶ(癌腫)は初め白色で軟らかいが,古くなると暗褐色で硬く表面には細かいしわができ,不定形で径数cmからこぶし大となる。病名が示すように幹の地際部や根にできることが多い。こぶは転移して広がり,植物を衰弱させる。根の傷,接木の接合面などから細菌が感染し,細菌の遺伝因子であるプラスミドが伝達されて傷口の細胞が腫瘍(しゆよう)化するとその細胞は植物体に寄生した形となり,栄養をとって異常に分裂・増殖しこぶになる。細菌は土やこぶの中で越冬し,移植,接木の際あるいは雨水などで伝染する。土壌や苗の消毒で防除するが,病原性のない特殊な細菌を用いた生物的防除法も知られている。広義には菌癭きんえい)の一種である。
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百科事典マイペディア 「根頭癌腫病」の意味・わかりやすい解説

根頭癌腫病【こんとうがんしゅびょう】

植物病原細菌アグロバクテリウム・チュメファシエンスによって引き起こされる植物病。多くの樹木や草本植物の根あるいは茎の地ぎわ部にこぶを生じる。病原細菌は土壌中に生息し,根や茎の傷口から侵入して細胞壁に接着した後,菌体内のプラスミドTiプラスミド)上にある転移DNA領域(T-DNA)を植物細胞内に移行させ,植物の染色体DNAに組み込ませる。T-DNAには植物ホルモンおよび細菌の栄養となる特殊アミノ酸を合成する遺伝子が座乗しているため,感染植物はこれらの物質を生産するようになり,こうして生産された過剰の植物ホルモンの作用によって植物細胞の異常増殖が生じる結果,癌腫が形成される。現在では,このような感染機構を応用して,本菌を植物遺伝子工学のベクターとして利用する技術が確立されている。
→関連項目植物細菌病

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