改訂新版 世界大百科事典 「栽培限界」の意味・わかりやすい解説
栽培限界 (さいばいげんかい)
cultivation limit
環境条件によって規定される各種農作物の栽培可能地域の限界をいい,とくに経済的に採算がとれる限界であることを強調するときには耕作限界という言葉を用いることがある。作物の栽培にもっとも限定的に働く環境条件は気候であり,気候要素としての温度および水をめぐって栽培限界が問題とされるのが普通である。とくに温度はもっとも重視される要因であり,地球上の緯度や標高によって栽培限界が規定される。暖地産の作物の生育は低温によって制約を受けるので,その栽培には北限(南半球では南限)や標高の限界がある。一方寒地産の作物の生育は高温によっても制約を受けるので南限がある。たとえば熱帯産の水稲栽培の北限は,夏季の平均気温が18℃で,日平均気温10℃以上の期間内の積算温度が2000℃の地帯とされている。一方春まきコムギの南限は最寒月平均気温が0℃で,それ以上にならない地帯とされ,栽培可能地域の積算温度はおおよそ1600~2300℃の範囲とされている。またリンゴでは南限が最暖月平均気温26~27℃,北限が最寒月平均気温-15℃とされている。限界温度は同じ作物でも品種によって異なるし,品種改良,栽培技術の進歩によっても変わりうるもので,時代の移り変りとともに従来の限界をこえて,さらに広い地域に栽培されるようになることも少なくない。熱帯産のイネが北海道の北東部を除く全域で栽培されるようになったのは,そのよい例である。温度についで重要なのは水である。ある地域において,作物が利用できる水量は降水量と蒸発量から推定できるが,作物の生育には年間の降水量の分布が大きく影響するので,年間降水量を基準として栽培限界を決めることは難しい。しかし,作物の耐干性や生育期間中に必要とする水量は,栽培限界を判定する目安になる。たとえば,トウモロコシはソルガム(モロコシ)より,イネはトウモロコシより,より湿潤な地帯でないと栽培できない。
執筆者:石原 邦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報