日本大百科全書(ニッポニカ) 「構築主義」の意味・わかりやすい解説
構築主義
こうちくしゅぎ
constructionism
現実に存在していると考えられる対象や現象は、客観的もしくは物理的に存在しているのではなく、人々の認識によって社会的に構築されていると考える社会学の理論的立場。社会構築主義、構成主義、社会構成主義ともいう。たとえば、多くの人々は「地球は丸い」ということを体験的に確認しているわけではなく、物理的計算や史実に基づいて共有された社会的な現実として認識している。このように、客観的かつ物理的な現実として存在すると考えられている「丸い地球」も、人々が共有する「地球は丸いものだ」という認識によって構築された現実として理解される。
構築主義の特徴は、対象や現象の実体がなくても、人々の認識があれば現実として構築されると考える点である。この点から、しばしば本質主義essentialism(対象や現象には実体があると考える理論的立場)と対置されるが、理論的な背景が異なるため、一様に対立関係にあるとはいえない。構築主義の系譜も多岐にわたり、シンボリック相互作用論、ジェンダー論、権力論などで展開されている。
代表的なのは、ラベリング論の系譜から登場した社会問題の構築主義的研究である。社会問題には実体があるのではなく、それは問題であるとするクレイム申し立て活動によって構築される。たとえば、好意を寄せる相手をつけまわす行為を「純愛」として人々が認識していれば問題にならないが、それを問題視する人や団体がクレイムを申し立て、そのクレイムによって人々が「問題だ」と認識することで「ストーカー」が社会問題として構築される。
構築主義は、さまざまな研究対象や事例の成立過程を明らかにできるため汎用(はんよう)性が高い。一方で、対象や現象の本質的理解を放棄し、問題の改善には寄与しないなどの批判もある。
[田中智仁]
『P・L・バーガー、T・ルックマン著、山口節郎訳『日常世界の構成――アイデンティティと社会の弁証法』(1977・新曜社)』▽『J・I・キツセ、M・B・スペクター著、村上直之他訳『社会問題の構築――ラベリング理論をこえて』(1990・マルジュ社)』▽『平英美・中河伸俊編『構築主義の社会学――実在論争を超えて』新版(2006・世界思想社)』