檜物はもともとヒノキの材でつくった薄い曲物(まげもの)をいったが,後にはひろく曲物の総称となった。曲物は薄板を曲げ円形または楕円形につくった容器で,箍(たが)を用いず,桜や樺の皮を細く割いたものでとじたものである。竹の箍でしめた桶,樽がつくられる以前は,水やしょうゆなどの容器としては,こうした曲物か刳物(くりもの)が使われていた。檜物師の道具にはいろいろな形の小刀と鐁(鉇)(やりがんな)があった。その製品にはメンツ,ワッパと呼ぶ弁当箱,柄杓(ひしやく),三宝,飯櫃(めしびつ),苧桶(おぼけ),蒸籠(せいろう),篩(ふるい)などがある。檜物師は,こうした庶民の日常生活と結びつきの深い用具をつくったが,早くから自立した諸職の一つである。江州日野周縁の檜物荘の起立は古いが,鎌倉時代には各地に檜物座も成立し,室町時代の《庭訓往来》に芸才七座の店の中にその名がある。また《七十一番職人歌合》にも,当時の市町(いちまち)の檜物師が描かれている。大工町,鍛冶町と並んで,古い城下町に檜物町という地名のあることは,よく知られている。
執筆者:橋本 鉄男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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