往来物の一種。作者不詳。南北朝後期から室町初期の作と推定される。庭訓は,孔子が庭で息子を呼びとめ,詩や礼を学ぶべきことを説いた故事から出た語で,家庭での教訓,父から子への教訓を意味する。手紙文の形式をとり,〈正月状往〉〈同返〉以下12月まで各月2通ずつに〈八月状単〉を加えた25通からなる。〈招き居(す)えべき輩は,鍛冶,鋳物師,巧匠……(以下37種の職名)〉のように文章中に同類の名詞を列挙し,あるいは〈次に大舎人(おおとのえ)の綾,大津の練貫(ねりぬき),六条の染物……(以下19項)〉のように,産業・特産物を短句の形で並べている。名詞・短句の種類は,衣食住,職業,産物,武具,仏教,犯罪,政治,病気,治療法等あらゆる分野にわたり,しかも武士や庶民の日常生活に密着したものが多い。安土桃山時代以前に筆写されたものだけでも30種をこえ,室町時代後期には注釈本が作られた。江戸時代には,本書,注釈本,絵入り本等が各種刊行され,家庭や寺子屋で習字用・読本用教科書として広く使用された。絵入りの最古版は1688年(元禄1)刊《庭訓往来図讃》で,児童の理解を助けるために作られた。同じころヨーロッパでも,コメニウスの著した絵入り教科書《世界図絵》(1658)が各国語に翻訳され広まっている。
→往来物
執筆者:中江 和恵
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中世後期から近代初頭にわたり普及した初歩教科書で、いわゆる往来物の一種。作者は僧玄恵(げんえ)との説もあるが不明。南北朝末期から室町前期に至る間の作とされている。進状・返状各一対ずつの書状を1年の各月に配し、閏(うるう)8月の進状一通を添えた25通の書状からなる。書状には社会万般の事物に関する単語をあげ、武士や庶民の心得おくべき社会生活、生産活動上の知識を網羅している。中世の普及期を経て近世に入り、教科書として編纂(へんさん)・刊行される過程において、幼童・庶民向けへの教育的配慮も加えられ、長く広く愛用された。
[利根啓三郎]
『石川謙・石川松太郎著『日本教科書大系3 古往来3』(1968・講談社)』
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往来物の一つ。2巻。南北朝期の成立。撰者不明。月ごとの往復消息文12組24通と1通の消息からなる。各消息の間に要語の語彙集をはさみ,文例と語彙の知識の両方を与える工夫がなされる。1386年(至徳3・元中3)の出雲神門(かんど)寺蔵本,1451年(宝徳3)の天理図書館蔵本,73年(文明5)に没した興福寺経覚筆の謙堂文庫蔵本などがあり,相当普及したことがうかがえるが,近世の刊本も多く,往来物として最も普及した。「日本教科書大系」「東洋文庫」所収。
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…さらに鎌倉中期には,手紙を書くうえで必要な雑知識,慣用語句などを集めた《雑筆往来》も作られた。ついで南北朝・室町時代初期に作られた《庭訓(ていきん)往来》は,《十二月往来》の形式によりながら(8月が3通になっているために全25通から成る),室町初期の武家社会の諸行事に託して,書簡文作製のための基礎知識と,武家の生活に必要な諸知識を網羅的に収めることに成功している。そのため,これは古往来の代表として江戸時代を通じて寺子屋などで広く使用され,単独のものだけでも170回以上板行された。…
…また一方では,詩文を作るための手引書として《作文大体(さくもんだいたい)》などが作られた。これは正格の漢詩文を作るためのものであるが,和習を含んだ書簡文のための範例文集とでもいうべき《明衡(めいごう)往来》《庭訓往来》などの往来物も作られた。この類のものには,正倉院文書として残存する聖武天皇妃光明子の手写になる《杜家立成(とかりつせい)》があり,その辺に淵源すると思われる。…
※「庭訓往来」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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