精選版 日本国語大辞典 「曲物」の意味・読み・例文・類語
まげ‐もの【曲物】
- 〘 名詞 〙
- ① 杉や檜などを薄い板状にし、それをまげて、桶のように丸い器に作ったもの。綰物(わげもの)。
- [初出の実例]「あつさとうるしとは器をぬらうとまけ物とによいぞ」(出典:古活字本毛詩抄(17C前)三)
- ② 物を質入れすること。また、その品物。質だね。質ぐさ。
- [初出の実例]「顔みせ前に、小づめ共のまげ物をうけてとらせ」(出典:評判記・役者口三味線(1699)京)
薄く削った片木板(へぎいた)をたわめて筒形にし,底を別の板でふさいだ木の容器。檜物(ひもの),綰物(わげもの),まげワッパともいう。日本では弥生時代からその存在が確認され,古代,中世を通じて日常生活用具,神饌具などに広く用いられたが,現在ではわずかに雑器と茶道具の一部(水指,盆など)に取り入れられているにすぎない。7世紀以降に大々的に生産されるようになり,原則としてヒノキを用いた。器壁の側板は,均等に曲げるために内側に浅い刻線を入れ,両端の重ね合わせの部分で縦列の切れ目を入れて,樺皮(かば)(一般にはヤマザクラの皮)紐で段々に綴り合わせる。底板のとりつけ方には,側板よりも大き目の板を用意して側板をのせ,数個所を樺皮で留める樺皮結合と,底板を側板に落としこんで外面から木釘で留める釘結合とがある。また底板の結合部や口縁に,別の細板を箍(たが)としてとりつけて強化するものも少なくない。
曲物はその平面形によって,円形,楕円形,長方形などに区分できる。釘結合のものは円形曲物にかぎられ,深い容器をつくり,樺皮結合は楕円形,長方形曲物に用いられ,比較的浅い蓋,皿,盆,膳などの容器をつくる。用途は広く,上記のほか麻笥(おけ),三方(さんぼう),水や飯を入れる桶,櫃(ひつ)など生活のあらゆる局面で用いられた。中国では戦国,漢代の漆器に類似の技法がみられ,弥生時代になって日本へ伝えられたものとみられる。
現在,曲物に用いる材は尾州檜,吉野杉が最上とされ,曲げる板の一部にでも癖があれば正円形が得られないので,1本の丸太から使用されるのはその3割程度という。特殊なものにキリ材による室町時代の曲物浄菜大盆(京都相国寺),小林如泥(1753-1813)作のクワ材による曲物煙草盆などがある。また類似のものに,挽曲(ひきまげ)造の折櫃(おりびつ)などがある。
→檜物師
執筆者:町田 章+木内 武男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ヒノキやスギなどの薄板を円形、楕円(だえん)形に曲げて、これに底板を取り付けた容器。綰物(わげもの)、檜物(ひもの)ともいう。日本では、その存在は弥生(やよい)時代から認められているが、とくに中世の絵巻物などをみると、日常生活において、広く木製容器が用いられており、それらは刳物(くりもの)以外は、ほとんど曲物が使われていて、箍(たが)締めの桶(おけ)や樽(たる)が普及する近世以前には、水やしょうゆなどを入れるにも、刳物か曲物が使われていた。曲物の製法は、薄く剥(は)いだヒノキなどの板を熱湯に浸したり、火にあぶって柔らかくなったところで曲げ、飯粒(めしつぶ)を練ってつくったソクイという糊(のり)ではり、箍は使わずに、継ぎ目をサクラやカバなどの皮を細く裂いたもので綴(と)じ、底板をつけたもので、多くは蓋(ふた)がある。製品には、ワッパやメンパ、メンツウとよばれる弁当入れをはじめ、三方(さんぼう)(三宝)、柄杓(ひしゃく)、篩(ふるい)、麻小笥(おごけ)、蒸籠(せいろう)、飯櫃(いいびつ)などがあり、曲物はいろいろの容器をつくるのに用いられた手法で、山村の手仕事としても多く行われた。なお、曲物を製作する職人を檜物師とよぶ。曲物は、現在、茶道具や雑器の一部にわずかに使用されているにすぎない。
[宮本瑞夫]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 日外アソシエーツ「事典 日本の地域ブランド・名産品」事典 日本の地域ブランド・名産品について 情報
…《延喜式》には〈著足折櫃〉と足つきのものも見える。〈檜の薄板を折り曲げて筥(はこ)に作る也,是は餅類肴などを盛りフタをして,四隅に作り花などを立てゝ飾る也,俗に折と云も同物也〉と伊勢貞丈のいうように,ふたつきの曲物(まげもの)が基本で,1合2合と〈合〉を単位として数えた。形は四角,六角,八角などにつくり,白木のもののほか絵をかき彩色したものも多かった。…
…檜物はもともとヒノキの材でつくった薄い曲物(まげもの)をいったが,後にはひろく曲物の総称となった。曲物は薄板を曲げ円形または楕円形につくった容器で,箍(たが)を用いず,桜や樺の皮を細く割いたものでとじたものである。…
※「曲物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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