欧州におけるポピュリズム(読み)おうしゅうにおけるぽぴゅりずむ

知恵蔵 の解説

欧州におけるポピュリズム

欧州でポピュリズム政党が支持を急速に拡大させている状況のこと。2000年代に入ってから右翼の過激なポピュリズム政党が存在感を強め、10年代には欧州議会や国政選挙で著しい台頭を見せた。イギリスの連合王国独立党(UKIP)やフランスの国民連合(旧国民戦線)、デンマーク人民党(国民党)などは、得票数や議席数で4分の1前後を占めるまでに至った。この他、各国で連合政権に加わるなどして強い影響力を持って政策に介入したり、単独政権を担ったりする党も現れた。
ポピュリズムには、「大衆主義」などの訳語もあり、権力をほしいままにするエリート層などに対して大衆対峙(たいじ)させ、大衆の求めるところに依拠してその支持を求める政治手法や運動を指す。ただし、必ずしも何らかの系統的な思想体系を指すものではない。別の訳語である「大衆迎合主義」に表されるように、大衆におもねるとともに、その不満や不安をあおり立てる政治手法をとることも多い。あたかも大衆の代弁者であるかのように装って衆目を集め、これをカリスマ的なリーダーへの熱狂的な支持にすり替えるなど、手法そのものを目的化したり、さらに転じて無思慮で感情的な排外主義に陥ったりするような傾向も見られる。
欧州のポピュリズム政党は、一般に反エリート、反グローバル的なナショナリズムEUの否定や不信などをその特徴としている。また、右派のみならず、一部にはバラマキ型の政策を掲げる左派ポピュリズム政党も現れている。かつての欧州はナチズムへの反省から、ポピュリズムに対して懐疑的な風潮にあるとも言われていた。このため、顕著なポピュリズム政党の伸長は、いくぶんの意外性をもって迎えられた。近年の欧州でのポピュリズムの台頭は、その背景に自国及び欧州連合(EU)の政治制度に対する信頼感の低下があると言われている。
EU圏では08年に発生した金融危機の後、財政緊縮により景気が大幅に後退した。10年代半ばからは回復傾向にあり財政引き締めも緩和に向かったが、国によっては依然として若年層の高い失業率が続くなど課題は多い。また、EU域内でも格差が目立ち、経済成長が進む国でもその恩恵が国民全般にいきわたるまでには至っていない。こうした状況の中で、アラブの春を端緒とする紛争により多数の難民が流入したり、イスラム過激派によるテロ事件が相次いだりして、内外に多くの問題を未解決のまま残している。ポピュリズム勢力は、これらに対する焦燥や危機感をよりどころとして支持を伸ばしてきたと言われている。

(金谷俊秀 ライター/2019年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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