スイスの法学者、人類学者バッハオーフェンが、1861年に著した『母権論』で最初に提起された概念。彼によれば、母権ないしは女人政治制は、ギリシア系民族のリキア人の風習が示すように、子が母の姓、身分に従うもので、デメテル(ギリシア神話の地母神)的産出地母神の原理をその基盤とし、父権原理に先行するものとした。乱婚→母権(母系)→父権(父系)という考え方は、19世紀の進化主義的人類学のなかで広く受け入れられ、モルガンをはじめ多くの人類学者がこの立場にたって世界史の再編成を試みた。一方、文化史学派は、母権制の基礎を、低次農耕と女性の労働という経済的基盤に求め議論を展開した。しかし、母権のなかに含まれる種々な要素を検討すると、現実にそれにふさわしい社会は存在せず、今日では母権という語は使用されていない。
[青柳まちこ]
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