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母権制 ぼけんせいmatriarchy

翻訳|matriarchy

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

母権制
ぼけんせい
matriarchy

妻方居住婚母系制,家母長制という一連の要素を内包する社会制度。 J.バハオーフェンが 1861年にその著書『母権論』を著わして以来,進化主義者や伝播主義者たちの間で盛んに用いられた概念であるが,現在の文化人類学者で,この概念を支持する者はほとんどいない。バハオーフェンの説に従えば,人類の最も原始的な段階は乱交的性生活であり,子供はだれが自分の父親であるかはわからないが,生みの親たる母親は認知できた。したがって系譜のたどり方は,母から子へと行われ,その際子供は母方に居住し,さらに確実に知られる唯一の親として母親が尊敬されていた。これが制度化され,さらに政治の実権を握る段階で,母権制を基礎にした女人政治が行われたとするものである。さらにこのような社会は,古代ギリシア・ローマにみられた父系=父権的社会に先行するという発展段階を想定した。宗教的職掌の女性による継承や,一時的な王位の座に女性が君臨したことは,たとえば古代日本や 15世紀頃からの沖縄の政治組織のなかにみられる。しかし,各地の調査資料によれば母系制社会は認められるが,政治権力を世襲的に女性が受継ぐという社会は認められない。

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デジタル大辞泉の解説

ぼけん‐せい【母権制】

家族や親族集団の支配権を女性がもっている社会制度。19世紀に、人類社会の進化史上で、家父長制または父権制に先行したと提唱されたが、その存在は否定されている。→母系社会

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百科事典マイペディアの解説

母権制【ぼけんせい】

女性が家族や氏族で優越的地位を有する社会制度。英語matriarchyなどの訳。男子が家族や氏族の長となる父権制(patriarchy)に対する概念。19世紀半ばまでは父権制が当然のことと考えられていたが,バッハオーフェンやL.H.モーガンが,人類は原始乱婚時代から母系・母権時代を経て父系・父権時代に至ったと主張してから母権論が有力となった。のちに原始乱婚説は否定され,母系制の場合でも実権をもっているのは近親の男子である場合が多いことが理解されて,現在では母権制の存在は疑問視されている。だが事実として父権支配,男性支配がある以上,ラディカルな対抗原理としてなお有効であろう。
→関連項目家父長制

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世界大百科事典 第2版の解説

ぼけんせい【母権制 matriarchy】

(1)財産や集団の成員権などが母系をたどって伝えられ(母系制),(2)婚姻生活が妻方の共同体で営まれ(妻方居住婚),(3)家族内外で女性が優越的地位を有する(家母長制)という一連の要素を内包する社会制度をさす。《母権論》(1861)を著し原始母権制説を唱えたバッハオーフェンによれば,人類の最も原始的な段階では乱交的性生活が営まれ,血縁関係は母系的にたどられた。子どもは母方に居住し,確実に知られる唯一の親として母親が尊敬された。

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大辞林 第三版の解説

ぼけんせい【母権制】

家族や親族集団などの権力を女性がもっているような社会制度。母権制は母系制と同一視されることがあったが母系制は必ずしも母権制を意味せず、人類発展史の一段階としての母権制を想定する説は否定されている。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

母権制
ぼけんせい
matriarchy

女性が社会において重要な地位をもち、家族内での権威や政治権力を握っているような社会体制をいう。かつては、人類社会の進化史上、父権制の成立に先だって普遍的に存在していた社会体制であると信じられていた。母権制の存在および母権制先行説は、19世紀の後半にバッハオーフェンやモルガンらによって、社会進化論の立場から提唱されたもので、当時の支配的な学説の一つとなり、20世紀に人類学者により決定的な反駁(はんばく)が加えられるまで、数多くの論争を生んだ。モルガンの影響を受けたエンゲルスによって、マルクス主義の教義にも取り入れられたことは有名である。
 彼らの説によると、人類社会は、その進化の始めにおいて原始乱婚の時代をへ、生物学的にみて父性よりも母性のほうがはっきりしていることから、ついで、母と子の紐帯(ちゅうたい)を集団構成の核とする母系制の時代へと進んだ。母性しかわからなかった時代には、母親が一家や一族の中心として権威・権力をもち、ひいては全社会においても、女性の地位が優越していたであろうというのである。しかし実際には、母権制の例として提出された社会の多くは、財産相続や出自を女性を通してたどる母系制をもつにすぎず、そこでも財産の管理運営や政治的権力は男性の手中にあることが普通である。過去においても、実際に母権制とよびうるような制度が存在していたかどうかは大いに疑わしい。母権先行説の進化論的枠組みの単純さと、そこに含まれる誤謬(ごびゅう)、母権制と単なる母系制との混同、実証的根拠の欠如などから、今日では彼らの説はほぼ完全に否定されているといっても間違いではない。今日の文化人類学の基礎を形づくっている親族研究の発展に刺激を与えたという功績を別にすれば、母権制をめぐる数多くの議論は不毛なものであった。[濱本 満]

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世界大百科事典内の母権制の言及

【母系制】より

… 〈母系制〉の問題で100年来議論の多かったのは,母族すなわち母系出自成員の公的権威の問題であった。女性が社会の公的権威を掌握し,男性を支配するという権力形態である〈母権制〉が,〈父権制〉に先行する古代社会の一般的社会形態であったという説は,母系制社会にさえみられないということで否定されつづけてきた。母系制社会においても公的権威は男性が掌握していること,母系制を採用している社会は,人口支持力のある定住農耕民社会にかなり集中してみとめられることなどが,〈母系制〉は〈母権制〉ではなく,かつ古代社会の形態とはいちがいにいえないことの根拠となってきた。…

※「母権制」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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