教育の全領域を対象とし、2か国以上の教育を、現在を中心として比較する学問を比較教育学という。かつてドイツの比較教育学者F・シュナイダーFriedrich Schneider(1881―1974)は、単なる外国教育事情に関する研究を外国教育学と称し、それを比較教育学から峻別(しゅんべつ)した。しかし今日では、比較教育学と外国教育学とは一般に厳密に区別されておらず、外国教育学は比較教育学を構成する第一段階だとされている。比較教育学は教育学の一つの新しい分野であり、国際化時代を迎えた現代社会において、その果たす役割がますます大きくなりつつある。
比較教育学の歴史は、フランスのマルク・アントアーヌ・ジュリアンMarc Antoine Jullien(1775―1848)に始まる。彼は1817年に『比較教育学の構想と予備的見解』という小冊子を刊行し、比較教育学の目的と方法を初めて明らかにした。その後、19世紀の近代国家の出現に伴って、教育を国家的に整備する必要から外国教育事情の調査研究が盛んに行われ、各国において貴重な報告書が数多く作成された。明治初年の「学制」に重要な影響を及ぼした田中不二麻呂(ふじまろ)の『理事功程』(全15巻)は、そのような報告書の一つである。このような基礎を踏まえて、第一次世界大戦後、比較教育学がようやく世人の注目を集めるようになった。わが国では、第二次大戦後に急速な発展を遂げ、1965年(昭和40)に日本比較教育学会が発足した。
比較教育学の目的の第一は、外国の教育との比較を通じて自国の教育の特色や問題点を明確にすることにある。第二は、その国際的な広い視野と最新のデータとをもって、自国ならびに世界の教育改革に寄与する点にある。第三は、各国の教育を比較することによって、教育の法則性を探究することにある。また、国際社会に生きる日本人の育成ということが強調されている今日、教員養成においても比較教育学が重視されている。
[沖原 豊]
『E・J・キング著、沖原豊ほか訳『比較教育学と教育政策』(1977・南窓堂)』▽『沖原豊編『比較教育学』(1981・有信堂高文社)』▽『吉田正晴編『教職科学講座第8巻 比較教育学』(1990・福村出版)』▽『P・G・アルトバック著、馬越徹監訳『比較高等教育論――「知」の世界システムと大学』(1994・玉川大学出版部)』▽『石附実著『教育の比較文化誌』(1995・玉川大学出版部)』▽『ユルゲン・シュリーバー編著、馬越徹・今井重孝監訳『比較教育学の理論と方法』(2000・東信堂)』▽『日本比較教育学会編『比較教育学研究』各年版(東信堂)』
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