気体放電(読み)きたいほうでん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「気体放電」の意味・わかりやすい解説

気体放電
きたいほうでん

気体中における放電。放電のもっとも一般的なものである。気体は普通は電気をほとんど通さない絶縁物であるが、気体中に置いた二つの電極の間に電圧をかけ、電圧を増大していくと、ある電圧値において電極間の電流が急激に増加し、同時に火花を発する。この電流が急増する電圧を放電開始電圧または火花電圧という。気体中の放電では、発光部の外観や電極の動作などにより、グロー放電アーク放電コロナ放電火花放電誘電体バリア放電無電極放電に分類される。また気体の圧力により、約1気圧以上の気体中における放電を高圧放電、それより低い数分の1気圧以下での放電を低圧放電と分類することもある。

[東 忠利 2024年6月18日]

放電開始機構

気体中の陰極陽極の二つの電極の間に電圧を加えていくと、初め宇宙線のような自然放射線などの電離により、気体中にわずかに存在する陰イオンおよび陽イオンが電極間を移動して、微小な電流が流れる(この状態では、放電はまだ始まっていない)。さらに電圧を増加すると、これらのイオン、とくに陰イオンである電子が加速され、気体分子や原子を電離して陽イオンと自由な電子をつくる。この電子がさらにほかの気体分子や原子を電離すると、電子は雪崩(なだれ)状に増加して陽極に向かって流れる。一方、電子と同数つくられる陽イオンは、陰極に向かって流れ、陰極に衝突して、ある確率で陰極から電子をたたき出す。このようにして放電が維持される。陰極から出た1個の電子がもとになって生じたN個の陽イオンがふたたび陰極から1個の電子を出させるような条件を、放電自続条件または放電開始条件という。1個よりも多い電子が陰極からたたき出されるならば、電流は時間とともに増大する。電流が時間とともに増大する条件では、抵抗体のようなもので電流を適当に制限しないと、放電装置を壊すことになる。放電ランプの場合では、電流を制限する回路部品を安定器という。また加速された電子が気体分子や原子を電離することをα作用(アルファさよう)といい、陽イオンが陰極から電子をたたき出すことをγ作用(ガンマさよう)という。

[東 忠利 2024年6月18日]

電流電圧特性

以下に、外部回路により電流の急増を抑制し、電流を徐々に増加させながら電極間の電圧を測定してみる。電極間に電圧を加えると、まず気体中にわずかに存在するイオンのため、微小電流が流れる。さらに電圧を増加すると、ある電圧付近から電子の衝突により、電離が行われるようになり、電流が増加する。ある程度電流値が大きくなると、陰極前面の陽イオンの密度が非常に高くなる。それに伴って、陰極前面の電界が非常に強くなり、電離が効果的に行われるようになるため、ほかの部分の電界は逆に弱くなり、全体として電極間の電圧は低くなる。このように陰極前面の陽イオン密度が高くなって電界が強くなることを電荷の蓄積効果といい、このような状態での放電をグロー放電という。グロー放電の電流域では気体の発光(グロー)が顕著となる。グロー放電のうち、電流を変化させても電極間の電圧がほとんど変化しない範囲を正規グロー放電という。この範囲では、電流の変化が陰極面での放電面積の変化に対応している。放電面積が陰極の前面を覆ってしまうと、さらに電流を増加するためには、電極間の電圧を増加する必要がある。この領域を異常グロー放電という。異常グロー放電では、陰極温度が上昇を始め、ある温度以上になると、熱電子放出が始まり、電流の増大とともに電極温度がさらに上昇し、熱電子放出が増加して、陰極前面の電圧降下が減少し、電極間の電圧も低下する。陰極からの電子の供給が、主として熱電子放出により行われている放電をアーク放電といい、この変化を、グロー放電からアーク放電への移行という。アーク放電領域では、電流の増加に対し電圧はあまり変化しない。

 以上の放電過程のうち、電流が変化しても電極間の電圧があまり変化しないグロー放電域とアーク放電域の二つが実用装置によく利用される。たとえばグロー放電を利用したものにはネオンサイン、ネオン管、点灯管(グロースターター)などがあり、アーク放電を利用したものには蛍光ランプ、低圧および高圧のナトリウムランプ、メタルハライドランプキセノンランプ、アーク灯などの照明用の光源がある。

[東 忠利 2024年6月18日]

そのほかの気体放電

火花放電は一般に閃光(せんこう)と音を伴う放電をいい、スパークともいう。その代表的なものに雷がある。コロナ放電は針状電極の先端などにみられる部分放電をいう。誘電体バリア放電は絶縁体である誘電体を介して気体に交流電圧をかけておこす放電をいう。無電極放電は電極をもたない放電管の周囲に交流電流を流すことによりおきる放電をいう。

[東 忠利 2024年6月18日]

『A・Von ENGEL著、山本賢三・奥田孝美訳『電離気体』(1968・コロナ社)』『電気学会編『放電ハンドブック』(1978・オーム社)』『A.von Engel著、山本賢三監訳『プラズマ工学の基礎』(1985・オーム社)』『武田進著『気体放電の基礎』新訂版(1990・東京電機大学出版局)』『照明学会光源システム研究委員会「光放射の基礎」編集委員会編『光放射の基礎』(2005・ウシオ電機)』


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世界大百科事典(旧版)内の気体放電の言及

【放電】より

…また固体や液体の表面をはう放電を沿面放電または表面放電という。 気体放電は自続放電と非自続放電,火花放電グロー放電アーク放電などに分類される。電極の紫外線照射など電子の供給を他に依存してはじめて成立する放電を非自続放電と呼ぶ。…

※「気体放電」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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