日本大百科全書(ニッポニカ) 「メタルハライドランプ」の意味・わかりやすい解説
メタルハライドランプ
めたるはらいどらんぷ
metal halide lamp
金属のハロゲン化物を石英の発光管に封入し、アーク放電によって、金属ハロゲン化物を蒸発、解離させ、それによって放射される金属およびその化合物特有の光を利用したランプ。1961年アメリカのレイリングGilbert H. Reiling(1928― )が水銀ランプの発光管の中にナトリウム、タリウムおよびインジウムのヨウ化物を添加封入して、光色や演色がともに大幅に向上することを発表し、実用化された。その後、スカンジウムおよびナトリウムのヨウ化物入り、ジスプロシウム、タリウムおよびインジウムのヨウ化物入り、ヨウ化スズ入りなどのランプが実用化された。封入した金属およびその化合物固有のスペクトルが得られるので、効率は水銀ランプの発光効率よりも高く、また演色性(色の見え方)を向上することができる。日本で初めて実用化されたのはスズ入りランプで、1966年(昭和41)名古屋の銀行営業室の照明に用いられた。のち1970年大阪で開かれた万国博覧会で多くのメタルハライドランプが使用され、普及するようになった。
[小原章男・別所 誠]
構造・原理
水銀ランプと類似した構造で、石英の発光管の中に水銀と希ガス(アルゴンなど)のほか金属のハロゲン化物を封入する。外管のガラス球内は窒素などの不活性ガスを封入するか、真空にする。電極間のアーク放電により、金属ハロゲン化物は金属原子とハロゲン原子とに分解し、金属原子の励起、電離によって、金属およびその化合物特有の光を発生する。ナトリウム、タリウムなどは線スペクトルである。また、スズのハロゲン化物の場合は分子状で発光するので、連続スペクトルである。
[小原章男]
金属ハロゲン化物を使用するのは、金属単体と比較して、金属蒸気の蒸気圧が高くできるからである。2000年代に入ると、発光管の石英をセラミックスとすることによってより効率を高めたセラミック・メタルハライドランプが主流になっている。セラミックスは石英に比べて化学的に安定なので、封入する金属ハロゲン化物との反応が抑制され、使用できる化学物質の範囲を広げることができる。その結果、石英タイプのメタルハライドランプよりも効率を高め、演色性も向上させることが可能になった。
[別所 誠]
種類
(1)ナトリウム‐タリウム‐インジウム系 ナトリウムの橙黄(とうこう)色(主波長589ナノメートル)、タリウムの緑色(535ナノメートル)、インジウム(451ナノメートル)の線スペクトルとを組み合わせた白色光で、100~2000ワットの種類がある。
(2)スカンジウム‐ナトリウム系 スカンジウムの多数のスペクトルとナトリウムの線スペクトルとを組み合わせたランプ。100~2000ワットの種類がある。この種類がもっとも多く使用されている。
(3)ジスプロシウム‐タリウム系 ジスプロシウムの多数のスペクトルとタリウムの線スペクトルとを組み合わせたランプ。50~3500ワットの種類がある。
(4)スズ系 スズのハロゲン化物の分子発光による連続スペクトルを利用したもの。光色と演色がともに優れたランプで、125~400ワットの種類がある。
(5)ショートアーク型 映写機、カラーテレビ、映画撮影などの光源として、ジスプロシウム‐ホルミウム‐ツリウム、ナトリウム‐タリウム‐インジウム(またはガリウム)およびスズ‐インジウムのハロゲン化物入りなどのショートアーク型ランプがあり、演色性が優れている。
(6)特殊用途のもの 封入金属によって特有の光を出すことができるので、用途に応じたランプがある。複写機用、印刷・製版焼付け用(ガリウム入り)、インキ硬化用(鉄入り)、紫外線用、光化学反応用(ナトリウム、タリウム入り)などが実用化されている。100ワット~60キロワットの範囲で実用化されている。
[小原章男・別所 誠]
特性および用途
演色性が比較的優れ、効率も水銀ランプの1.5倍であるが、寿命は6000~9000時間である。屋内外のスポーツ施設、高天井の工場、事務所、ホール、店舗などの照明として使用されている。
[小原章男・別所 誠]