雪崩(読み)ナダレ

デジタル大辞泉 「雪崩」の意味・読み・例文・類語

なだれ【雪崩/傾れ/×頽れ】

《動詞「なだる」の連用形から》
(雪崩)山の斜面に積もった大量の雪が、急激にくずれ落ちる現象。表層雪崩全層雪崩に分けられる。 春》「夜半さめて―をさそふ風聞けり/秋桜子
斜めにかたむくこと。傾斜。
「これから近道を杉山の間の処から―を通って」〈円朝真景累ヶ淵
押しくずれること。くずれ落ちること。
(頽れ)陶器で、うわぐすりが溶けて上方から流れ下がったもの。やきなだれ。
[類語](1雪雪崩表層雪崩全層雪崩底雪崩

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「雪崩」の意味・わかりやすい解説

雪崩
なだれ

多量の積雪の急激な落下をいう。地方によってはアワ、ナデなどの名称もある。フランス語のアバランシュavalancheということばも普及している。

[安藤隆夫]

分類

雪崩は理論的には、斜面の積雪を支持している力より、積雪が滑り落ちようとする力のほうが大きくなるときにおこる仕組みとなっている。雪崩には多くの分類法があるが、一般には表層雪崩(または新雪雪崩)と、全層雪崩(または底雪崩)に大別している。表層雪崩は、冬から春にかけて山に多量の新雪があればおこる。また、全層雪崩は、冬の間の積雪が全部一度になだれる現象で、春から初夏にかけてのころに多い。

(1)表層雪崩 表層雪崩の代表的なものは、古い積雪の上に多量(15センチメートル以上)の新雪が積もり、これがなにかの衝撃で崩れるときにおこる。登山者が雪庇(せっぴ)を踏んだり、落石があったり、ときには列車が通る振動などが衝撃となることがある。その衝撃力は1平方メートル当り135トンにも及んだ記録があり、これはコンクリートの構造物でも容易に破壊する力がある。この雪崩は大雪の後には昼夜を問わず、また場所を選ばずどこにでも発生する。

(2)全層雪崩 春から初夏におこるこの雪崩は、春になって日本海を低気圧が通るようなとき、南風が吹いて気温が急に上がったり、また雨が降って積雪の下層が緩んだりするときにおこりやすい。積雪面に割れ目ができ、それがしだいに大きくなるようなときは、全層雪崩のおこる危険がある。また、地形上、全層雪崩のおこる場所はだいたい一定している。

[安藤隆夫]

被害と防止対策

大規模な雪崩がおこるとき、猛烈な雪崩風(なだれかぜ)を伴うことがある。雪崩風は初め雪崩のすぐ背後におこるが、やがて雪崩の本体を追い越して、爆風のように突き進む。1936年(昭和11)2月20日未明に、富山県黒部峡谷西斜面のウド谷でおこった雪崩風は、ウド谷に架かっていた70トンの鉄橋を黒部川の対岸に吹き飛ばし、谷の右岸の半地下式の木造の小屋も、地上部分は黒部川の谷へ吹き落とされている。雪崩風の風速は毎秒60メートル以上と推定されている。

 雪崩による登山者の遭難は、これを防止する絶対的な対策はない。多量の新積雪があったときは、登山は避けるべきである。山で露営するときは、沢の本筋からなるべく遠い所を選ぶ。雪崩のおこりやすい斜面を登るときは、新雪の安定状態を確かめ、雪の締まっている未明など早朝に行動するのがよい。

 雪崩被害は、積雪地帯の山麓(さんろく)に多い。日本でもっとも大きな雪崩の被害は、1918年(大正7)1月9日、新潟県南魚沼(みなみうおぬま)郡三俣(みつまた)村(現在の湯沢町)でおきたもので、村の裏山から幅400メートル、長さ300メートルの雪崩が襲い、28戸の家を全壊させ、158人を圧死させた。外国の被害としては、1962年1月ペルーのワスカラン峰(6768メートル)の氷河が谷になだれ落ち、九つの集落を壊滅させ、4000人以上の住民および数千頭の家畜を圧死させたものが最大といわれている。

 雪崩の一般的な防止策としては、じょうぶな柵(さく)や壁などの防止設備を施すほか、山肌を階段状に削って積雪の移動を防止するなどの方法がとられている。雪崩地帯の家屋などは、屋敷の周囲の巨木は雪崩防止上切らないほうがよい。

[安藤隆夫]

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改訂新版 世界大百科事典 「雪崩」の意味・わかりやすい解説

雪崩 (なだれ)
avalanche

山腹に積もった雪が斜面上を急激に崩れ落ちる現象。なだれは人畜,森林,構造物,交通などに大きな被害をもたらすが,その規模は大小さまざまで,滑落総重量が数十tのものから,大は100万t級のものまである。日本のなだれ災害で最大のものは,1918年1月9日,新潟県南魚沼郡三俣で発生したもので,村の半分がなだれに埋められ,死者158名,負傷者22名に達した。なだれは傾斜が40度前後の木が少ない斜面で起こることが多く,30度以下の緩斜面や,雪があまり積もらない60度以上の急斜面ではめったに起こらない。なだれはその発生のしかた,形態上の特徴などによって古くから雪国各地でいろいろな名称がつけられてきたが,ここでは日本雪氷学会が決めた分類を表に示す。この分類では一点から出発して楔状に滑落する〈点発生〉と,かなり広い面積の雪が一斉に動き出す〈面発生〉に分け,さらに,積雪の上層部だけがなだれる〈表層なだれ〉と,雪全体の底から滑落する〈全層なだれ〉とに分類する。一方,なだれを,運動しつつあるときの形態で分類することがある。アメリカの林野庁などでは,雪煙を上げながらなだれる〈煙り型〉と,ずるずる滑落する〈流れ型〉とに分けている。前者は乾雪表層なだれ,後者は湿雪全層なだれに対応することが多い。なだれの運動速度は湿雪全層なだれの場合で秒速10~25m,乾雪表層なだれで30~50m程度である。空中高く舞い上がる煙り型のなだれは50~100m以上(時速200~400km程度)に達することもある。速度が大きいので衝撃破壊力も特に大きく,なだれの走路にある森林,建築物,鉄橋などを破壊し,吹き飛ばす。1938年12月27日,黒部第三発電所の建設工事中に発生したいわゆる志合谷のなだれもこの種のもので,4階建ての宿舎の上半部が作業員もろとも空中に飛ばされ,約600m離れた対岸の黒部川の岩壁にたたきつけられたという。この種のなだれはなだれ風を伴って被害を大きくするといわれるが,詳しいことは不明である。なだれの発生を予知する方法は,種々試みられているが,まだ研究途上にある。現在は斜面に造林をしたり予防柵や階段工を施工してなだれの発生を予防する方法や,スノーシェッド(雪おおい),防護壁の構築などによりなだれ災害を軽減防除する方法がおもに行われている。欧米の一部では斜面に大砲を打ち込んだり爆薬を仕掛けて人工的になだれを起こし,事前にその危険を解消してしまう方法もとられる。
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知恵蔵 「雪崩」の解説

雪崩

斜面に積もった雪が一時に大量に崩れ落ちる現象。古い積雪の上に積もった数十cm以上の新雪が滑り落ちるものは表層雪崩で、別名新雪雪崩。爆風を伴い真冬の低温時に時を選ばずに起き、雪崩による死傷者の9割を占める。春先や暖かい冬に、地面上の積雪層全体が滑り落ちる雪崩は全層雪崩(底雪崩)。雪渓や雪庇(せつぴ)などで雪塊が崩壊するのがブロック雪崩。積雪層が土砂混じりの鉄砲水となり流下するのが雪泥流(せつでいりゅう)。

(饒村曜 和歌山気象台長 / 宮澤清治 NHK放送用語委員会専門委員 / 2007年)

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デジタル大辞泉プラス 「雪崩」の解説

雪崩〔映画:1956年〕

1956年公開の日本映画。監督:山本薩夫、脚本:山形雄策、武田敦、撮影:西川庄衛。出演:岡田英次、星美智子、沢村貞子、津島恵子、木村功、加藤嘉、織田政雄ほか。

雪崩〔映画:1937年〕

1937年公開の日本映画。監督・脚本:成瀬巳喜男、原作:大仏次郎による同名小説、撮影:立花幹也。出演:佐伯秀男、英百合子、霧立のぼる、汐見洋ほか。

雪崩〔映画:1952年〕

1952年公開の日本映画。監督・脚本:新藤兼人、撮影:竹村康和。出演:藤田進、水戸光子、乙羽信子、菅井一郎、小柴幹治、殿山泰司、伊達三郎ほか。

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世界大百科事典(旧版)内の雪崩の言及

【フェデル】より

…次いでアナトール・フランスの同名の小説(1903)を映画化した《クランクビーユ》(1922)が,ドイツの表現主義映画と30年代のフランス映画の〈詩的リアリズム〉の橋渡しとなった作品として評価され,アメリカでも〈映画芸術の父〉といわれたD.W.グリフィス監督に激賞された。その後,アルプス山ろくの寒村を背景に少年と継母の心理的交渉を描いた《雪崩》(1923),写真屋に飾られた写真の女をもとめてさまようというジュール・ロマンのオリジナルシナリオによる〈ユナニミスム文学〉のロマンティックな映画化《面影》(1924),エミール・ゾラ原作の《テレーズ・ラカン》(1928)などをつくり,28年にはフランス国籍をとったが,ロベール・ド・フレールとフランシス・ド・クロアッセの喜劇をもとにした風刺映画《成上りの紳士たち》(1928)が議会と閣僚の威厳を非難するものとして公開禁止になり(1929年になって解除された),失意のうちにハリウッドへ渡り,グレタ・ガルボの最後のサイレント映画《接吻》(1929)を撮るとともに,ガルボ映画《アンナ・クリティ》のドイツ語版(1930)などをつくるが,ハリウッドになじめず31年に帰国した。 同じベルギー出身の脚本家シャルル・スパーク(1903‐75)との共同脚本と夫人のロゼー主演の《外人部隊》(1934),《ミモザ館》《女だけの都》(1935)は1930年代フランス映画の代表作であるにとどまらず,世界映画史を飾る作品に数えられているが,《女だけの都》はナチの侵入後ゲッベルスによって公開を禁止され,フェデルは戦争の間スイスへ避難することを余儀なくされた。…

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