翻訳|sludge
スラッジともいう。固形と液状の中間性状を示す泥状の廃棄物。鉱工業や農水産業の生産活動に伴って発生するのみならず,下水道,屎尿(しによう)処理,廃水処理などの公害防止施設などさまざまな分野から発生し,港湾,湖沼,河川やダムに堆積することも多い。生産活動で発生する汚泥には,例えば,溶液中で化学反応の後沈殿して生ずるもの,水による生産品の洗浄で生ずる不純物,有価物を抽出した後の残滓(ざんし)などがある。廃水処理では,水中の不純物を沈殿分離したり,活性汚泥処理で余剰汚泥を除去したり,ろ過による浮遊物質の捕捉(ほそく)回収などを行う過程で生成したりする。また港湾,湖沼,河川,ダムなどの堆積汚泥は,公共水域に排出した都市下水,工場排水などに含まれている浮遊物質や,市街地道路から雨水とともに流出してきたり,森林,田畑から流出してきた浮遊物質などが沈殿して生成される場合と,水中のプランクトンが死滅沈降して堆積して生ずる場合などがある。
このように汚泥はさまざまな分野,過程から発生し,したがってその性状も,電解苛性ソーダ工業,めっき工業などから発生する有害物質を含む汚泥,下水道,屎尿処理施設,浄化槽,製紙パルプ業,食品工業などから発生する有機汚泥,窯業,金属工業,鉱山から発生する無機性汚泥,石油関連業から発生する含油汚泥,港湾,湖沼,河川などに堆積する有機無機混合汚泥(いわゆるへどろ)など多岐にわたる。
〈廃棄物の処理及び清掃に関する法律〉(略称〈廃棄物処理法〉)では,これらの汚泥を事業活動に伴って発生する産業廃棄物としての汚泥と,屎尿浄化槽汚泥などの日常生活に伴って生ずる一般廃棄物としての汚泥に分類している。下水処理によって発生する汚泥は,産業廃棄物の分類に入っているが,埋立処分方法において一般廃棄物と同様の処置がとられている。発生源別(下水処理汚泥を除く)に見ると,廃水処理工程から発生するものと生産工程から発生するものがほとんどを占めている。一方,下水処理汚泥については,下水道の普及率の上昇とともに発生量が増加し続けており,処分が大きな問題になっている。
発生した汚泥については,〈廃棄物処理法〉や〈海洋汚染防止法〉などによって適正な処理処分を行うことが義務づけられており,産業廃棄物汚泥の中でも有害物質(水銀,アルキル水銀,カドミウム,鉛,有機リン,6価クロム,ヒ素,シアン,PCB,有機塩素化合物)を含む汚泥については,とくに環境庁告示〈産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法〉に従って分析,判断してから安全な形で処分しなければならないことになっている。
汚泥は水分を多く含み取扱いが困難なために,まず濃縮(重力沈殿による場合と,浮上分離による場合がある)し,続いて脱水し含水率を低下させる。脱水技術としては,太陽熱や風を利用する自然脱水,真空または加圧によるろ過脱水,遠心力利用の遠心脱水,冷凍融解脱水,毛管脱水,電気透水脱水あるいは凝集剤を利用して汚泥を凝集体やペレット状に固化した後に行う篩分(しぶん)脱水などが開発されて利用されている。無機成分の多い汚泥は,有害物質が含まれていなければそのまま埋立処分される場合が多い。しかし再資源化の方向で種々の研究,技術開発が進められている。例えば,含有金属汚泥(亜鉛,銅,鉛,水銀,コバルトなど)は山元還元して金属回収したり,他の工業原料(排煙脱硫セッコウ,石灰ケーキ,廃アスベスト,廃カーボン,ケイ藻土スラッジなど)に利用されているほか,焼成固化したものを建設資材や人工軽量骨材などへ利用することも進められている。
有機性汚泥については,乾燥,コンポスト化して肥料または土壌改良剤として緑農地に還元利用する方式,熱分解して燃料化する方式,直接燃焼して熱エネルギーとして利用する方式,嫌気性微生物の発酵によるメタンガスの回収方式(大規模な下水処理場では発生する沈殿汚泥や活性汚泥の余剰汚泥は,嫌気性消化によりメタン発酵している)などが試みられている。
なお,紙・パルプ排水が原因の静岡県田子ノ浦港へどろや水俣湾における水銀汚染を受けた汚泥など,公害を引き起こしている汚泥については,〈公害対策基本法〉に基づく諸法律により,港湾公害防止対策事業として,港湾管理者(地方自治体あるいは管理組合)が汚泥除去を実施しており,1979年までに全国31港湾で除去した総量は,約2080万m3にも及ぶ。ただし〈公害防止事業費事業者負担法〉に基づき,汚泥の堆積原因がすべて事業者の責による場合は,事業者が単独で全費用を負担し除去することが義務づけられている。
執筆者:松井 三郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…以後,第2次世界大戦前の日本では合流式が主流となった。日本で最初に採用された下水処理は22年に東京三河島汚水処分場の散水ろ床法によるもので,31年には名古屋の熱田,堀留の両処理場で活性汚泥法(当時,促進汚泥法と呼ぶ)が適用された。 コレラその他の伝染病は明治時代を通じて全国で数十万人の死亡者を出したが,これに対して1890年にまず水道条例が制定されて上水道の普及が図られ,また伝染病に対する細菌医学の進歩もあって死亡率は激減した。…
…広い意味では事業活動に伴って生ずる廃棄物の総称であるが,日本では〈廃棄物の処理及び清掃に関する法律〉(略称〈廃棄物処理法〉)において,産業廃棄物とは,事業活動に伴って生じた廃棄物のうち,燃殻,汚泥,廃油,廃酸,廃アルカリ,廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物と定義されている。政令では,上記の6種類に加えて,紙くず,木くず,繊維くず,ゴムくず,動植物にかかわる不要物,金属くず,ガラスおよび陶磁器くず,建設廃材,鉱滓,家畜の糞尿(ふんによう),家畜の死体などの13種類が指定され,合計19種類に分類されている。…
…濃厚なものをスラリー,希薄濃度のものをサスペンションに区分することがある。また槽底に沈んで堆積する濃厚なスラリーをとくにスラッジあるいは汚泥と呼んで区別することもある。スラリーの性質は構成要素の液体と粒子の性質および液体中の粒子濃度により異なる。…
※「汚泥」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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