海洋掘削(読み)かいようくっさく(その他表記)ocean drilling

改訂新版 世界大百科事典 「海洋掘削」の意味・わかりやすい解説

海洋掘削 (かいようくっさく)
ocean drilling

海面上から海底下に坑井掘削すること。海底トンネルを掘る前の事前地質調査などにも応用されているが,海底下に埋蔵されている石油資源探鉱・開発を目的とする海洋掘削が最も数が多く,また規模も大きい。当初陸域で開発されていた石油資源の埋蔵範囲が海底部にも延長していることがわかり,海岸からの傾斜掘りによる海底下の油層からの採油,海上部に突き出した桟橋からの坑井による採油などの方法がしだいに増え,さらに,より広い海域のより深い海底下の石油資源を開発すべく本格的な海洋掘削が確立されるに至っている。以下,海洋掘削の各種方式・装置について説明する。
海洋油田

初期段階の本格的海洋掘削は人工島方式であるが,人工島の建設に要する土砂の量や費用が水深が深くなるにつれて飛躍的に増大するので,氷海域など特別の事情があるところを除いて利用例は少なくなっている。人工島方式では,利用できる地表面積に制約は受けるが,通常の陸域における掘削とほぼ同様の方法が適用できる。ただし人員や資・機材の輸送は船によらなければならない。

鋼製のパイプで組みたてたプラットホームを洋上に建て海底に固定する方式で,技術の進歩に伴い前述の人工島方式より経済的であることから大勢を占めるようになった。とくに水深が深くなると前述人工島方式に比べて経済性に格段の差が出る。しかしながら現状では水深300m程度が限界とされており,これ以上の深海域に対しては新しい技術が検討されている。固定プラットホームはいわば鋼構造による人工島ともいえ,前述の土砂埋立てによる人工島と併せて人工島と総称することもある。固定プラットホーム方式のほうが利用できる上部平面の面積に経済的理由からの制約が厳しいので掘削機械の配置や掘削方法などにより工夫が施されているが,いずれの人工島方式も装置全体が海底に固定されている点では共通であり,相当額の固定投資を必要とする。したがって,すでに経済的に採収可能なだけの量の石油や天然ガスの存在が確認されている場合にのみ採用される方式で,探鉱段階の海洋掘削には適さない。このような場合には移動式海洋掘削装置が使用される。

鋼構造のプラットホームの上に掘削機械や掘削用の資・機材,作業員とその居住に必要なあらゆる付帯設備を搭載したまま,海域部の遠く離れた掘削地点の間をそっくり移動できるもので,浮上式と接地式に大別される。通常は支援用ボート,ヘリコプター,陸岸基地設備などが一式となっている。支援用ボートは掘削装置の曳航,資・機材や水,燃料,食糧などの運搬,アンカーの敷設・回収などを実施するもので,通常一つの掘削装置に2~3隻の支援ボートが組となっている。ヘリコプターは人員輸送や緊急用資・機材の輸送を行う。

(1)浮上式海洋掘削装置 浮上式はさらに船型と半潜水型とに分けられるが,これらの中間に類するものもある。船型は通常の船に掘削機械等を搭載したもので,海洋掘削船ともいわれる。掘削地点にとどまっているときの安定性に関して波の影響を受けやすい欠点があるため,稼働期間や稼働海域に制約を受けることが多い。掘削地点での係留にはアンカーが使われるが,水深が深くなるとスラスター(推進器の改良されたもの)とコンピューターの組合せで定点保持を行うダイナミック・ポジショニングが実用化されている。

 半潜水型は例えれば酒を少し入れた徳利を数本並べて横方向のパイプで固定したものを水に浮かべたような構造をしており,稼働状態では鋼構造の半分以上が水面下にある。このため波の影響はあまり受けず,したがって稼働期間や稼働海域の制約は大幅に改善されるが,装置が大型化して高価であることと,移動時の速度が船型に比して遅いという欠点がある。

(2)接地式海洋掘削装置 接地式は着底型と甲板昇降型とに分けられる。前者は鋼構造のプラットホームを注排水により掘削地点に着底させたり浮上移動させたりするもので,安全性の面から問題が多く使用海域が制限される。甲板昇降型は平板形の甲板に昇降可能な3本以上の脚をもつもので,掘削地点では脚を下げることにより甲板を海面上安全な高さまで持ち上げることができ,移動時には脚を上げて甲板部の浮力で海面に浮遊した状態とすることができる。甲板昇降型はその構造上稼働水深に限界があり大型のものでも100m程度であるが,浮上型に比して掘削作業がやりやすく(動かないから),移動式海洋掘削装置のうちでは現在世界中で最も数多く使用されている。
ボーリング
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「海洋掘削」の意味・わかりやすい解説

海洋掘削
かいようくっさく

海洋において、人工島やプラットホーム(海洋プラットホーム)、あるいは移動式掘削装置から石油井の掘削をすること。海底ボーリングともいう。海底油田開発の初期は海上に人工島やプラットホームを建設して掘削をしたが、油田探査の段階では探査が失敗すると損失が大きいので、移動式掘削装置が用いられるようになった。人工島はほとんど建設されなくなっていたが、北極圏の石油開発のためふたたび極地の環境に耐える人工島が建設されるようになった。

 固定式プラットホームには、掘削装置をすべて搭載しているものと、主要な掘削装置のみを搭載し、補助装置は船に積んでいるものとがある。プラットホームからは、数本または十数本の坑井が傾斜掘で掘削され、掘削が終了するとそのまま採油施設として使用される。固定式プラットホームは浅い海で使用されることが多いが、最近では、油層の存在が確認されている場合は100メートル以上の水深の海でも建設されている。の(1)は人工島、の(2)との(3)はプラットホームを示す。

 1949年以降、移動式掘削装置が建造されるようになった。最初に建造された形式はの(4)に示す着底式掘削装置であった。掘削装置が取り付けられる甲板と、それを支える船体とからなり、目的地点にくると船体に水を入れて海底に着底する。この形式のものは水深数メートルから30メートル程度までに使用されるが、現在はあまり使用されなくなった。の(5)は甲板が昇降するジャッキアップ式掘削装置で、現在浅い海域では広く使用されている。同装置は1953年デロング社のドックで初めて建造された。ジャッキアップ式掘削装置は目的地点にくるまでは脚を持ち上げて甲板で浮上し、目的地点で脚を降ろし、脚が固定されたら甲板が脚を伝わって海面に持ち上がり、掘削作業を行う形式である。日本で最初に建造使用された海洋掘削装置「白竜号」はジャッキアップ式の装置で、1958年(昭和33)に完成し、秋田沖や新潟沖の海底油田開発に用いられた。

 の(6)は半潜水式掘削装置で、現在深い海域の掘削に広く用いられている。同装置の第一号は1961年に着底式の掘削装置を改良してつくられた。半潜水式掘削装置は一般に脚が太くなっており、その下端にタンクを取り付ける構造になっている。目的地点にくるとタンクや脚に水を入れ、海中に脚の途中まで沈める。装置は海に浮かんでいるので、このままでは流されてしまうため、装置の四方にワイヤロープを張り、ワイヤロープの先端につけたアンカーで海底に固定される。コンピュータ技術の進歩により、アンカーを用いず自動位置固定装置を積載し、掘削装置の位置がずれると自動的に装置が移動し正しい位置を保持するシステムもある。北海油田の開発には半潜水式掘削装置が活躍した。日本にも数隻の半潜水式掘削装置があり、1974年に完成した「第三白竜」は水深300メートルの海上で掘削ができる。の(7)は普通の形の船に掘削装置を取り付けた掘削船である。1950年代から使用され始め、水深の浅い海域で使用される小型のものから数百メートルの水深のある海で使用されるものもある。

 海洋掘削は油田開発のほか海底地質調査にも使用されている。

[田中正三]


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