改訂新版 世界大百科事典 「海洋油田」の意味・わかりやすい解説
海洋油田 (かいようゆでん)
海域に存在する油田をいう。世界の石油埋蔵量は約2兆バレルといわれ,およそ23%に当たる約4600億バレル程度が海域にあると推定されている。海洋油田の埋蔵量の55~70%程度が水深200mくらいまでの比較的海底傾斜のゆるい大陸棚にあり,残りの大部分がより深い大陸斜面に25%くらい,コンチネンタルライズに3~10%存在すると考えられている。
海洋油田の探鉱にはまず地震探鉱調査船による地震探査により油田地質構造の有無を推定する。有望な地質構造が発見されると,次に試掘井を掘削して石油の有無を確認する。これには甲板昇降型,半潜水型,船型等の移動式海洋掘削装置が使われる。試掘に成功すると,油田の広がりと性質を調べるために何坑かの評価井を掘り,その結果を基に埋蔵量を評価し経済性を検討して,開発実施の可否を判断する。
海洋油田の開発
海洋油田の開発には油井掘削,原油の処理・輸送施設,居住施設,発電施設,海底パイプラインおよび諸施設を上載するためのプラットホーム等の建設工事が必要である。とくにプラットホーム建設と油井掘削は費用も多く要し,海洋油田開発を象徴する存在である。
本格的な海洋油田の開発の歴史は比較的新しく,1947年にアメリカ,ルイジアナ州沖合,水深6mの地点が最初である。当時のプラットホームは重量わずか1200tという小型のものでしかなかった。水深が比較的浅い場合はプラットホーム建造費も安価であるため,掘削用・生産施設用各プラットホームを別々に建造するのが普通である。しかし,水深が深くなるにつれプラットホーム建設費は指数関数的に増加するため,100mを超える水深では掘削・生産・居住等の諸施設のすべてを上載する多目的の大型プラットホームが建造されるようになった。この場合,プラットホーム上の狭いスペースを有効に活用するために,あらかじめ施設を組み込んだモデュールと呼ばれる構造物を何層にも積み重ねる方式がとられるようになった。この方式によれば海上における建設作業期間が短縮でき,建設費の節減にもつながる。1970年代になされた北海油田群の開発においては,このような大型プラットホームがさらに発展し,貯油の機能も備えた重力式プラットホームが実用化されるようになった。鋼製プラットホームはジャケットと呼ばれる基礎部分を海底に設置し,鋼管(パイル)を海底面下100m以上打ち込んで固定する方式であるが,重力式プラットホームはそれ自体の重量で海底面に固定される方式である。厳しい海象条件に耐える重量を得るためには,鋼製ではなくコンクリート製の土台が適している。さらに大型構造物であることから土台部分に貯油能力をもたせることも可能である。重力式プラットホームは1基が60万tに達するものもあり,人類が建造した最大の構造物と呼ばれている。
いまのところ世界最深に設置したプラットホームは,1989年メキシコ湾のブルウィンクル油田に建設された水深410mのもので,重量11.6万tの鋼製ジャケットである。またコンクリート製のプラットホームでは,89年に北海のトロール油田に設置された水深350mのもの(重量81万t)が記録である。さらに大水深の海洋油田開発には,海底に固定するプラットホーム方式では波による揺れが激しすぎることと費用がかさみすぎるために使用できないといわれている。このため浮上式プラットホーム,あるいは海中生産方式といった別方式が種々検討されており,一部実用化がすでに進んでいる。
一方,北極海に代表される氷海域における海洋油田の開発も20世紀末へかけての課題である。氷海域における生産用プラットホームの実績は,今までのところアラスカのクック湾の例に限られる。ここには1969年以降15基の鋼製円柱脚プラットホームが水深20~40mの浅海に建設されている。クック湾は平坦氷が多く氷象条件は比較的ゆるやかであるが,北極海では氷厚も厚く,大きな氷丘も発達し,厳しい氷象条件に耐える構造物が必要である。
日本における本格的な海洋油田の開発は1959年に発見された秋田市沖合の土崎沖油田が最初であり,その後新潟県の頸城油・ガス田,阿賀沖油・ガス田,福島県の磐城沖ガス田が開発されている。
→海洋掘削 →石油
執筆者:和田 恭彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報