改訂新版 世界大百科事典 「消費者保護」の意味・わかりやすい解説
消費者保護 (しょうひしゃほご)
広い意味では,自由な市場取引においては侵害されやすい消費者の利益を守ることを目的として発動される公権力の機能を指す。その例は,古くギリシア・ローマの都市国家時代から見いだすことができるが,近代資本主義の発展とくに20世紀になって,高度の科学技術を用いた消費財の大量生産や,専門的なサービスの提供が広く行われるようになったことから,ますます深刻な消費者問題が発生し,消費者運動の要求も強まりつつあることから,消費者保護は現代国家の重要な課題の一つとなっている。日本でも1968年制定の消費者保護基本法で,国と地方公共団体のそれぞれにつき〈消費者の保護に関する総合的な施策を策定し,及びこれを実施する責務を有する〉(2,3条)と明確に定められた。
消費者保護の具体的な方法としては,これまでのところ行政行為として,商品の品質の維持,安全性の確保,表示の適正化,公正自由な競争の確保などを直接の目的として企業活動を規制し,あるいは消費者の啓発・教育を行い,また消費者と事業者の間の紛争の処理に当たるといった,いわゆる消費者保護行政が主要な役割を演じてきている。したがって,このような消費者保護行政を単に消費者保護という場合も多い。だが近年,それを狭義の消費者保護にすぎないとして広義の消費者保護ときびしく区別し,後者の手段としてはむしろ前者を拒否する考え方が,しだいに消費者運動のなかで強まっている。すなわち,消費者の利益を人間としての権利ととらえる意識の深まりとともに,権利はその主体がみずから守るべきものとの視点から,消費者が主体的に企業に対抗できる力を持つことができるよう諸制度を改善,整備するのが真の消費者保護だという立場が,とくにアメリカなどで力を増してきている。これは,製造物責任法,クラス・アクション制度などに結びつくが,この面では日本は大きく立ち遅れている。
執筆者:久世 了
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報