改訂新版 世界大百科事典 「災異思想」の意味・わかりやすい解説
災異思想 (さいいしそう)
漢の董仲舒(とうちゆうじよ)によって提起された政治上の主張。自然界には洪水,干ばつ,日食,地震,寒暑の変調など,さまざまの異常現象がおこる。これらのうち,小なるものを災,大なるものを異と定義し,この災と異を利用して,政治の横暴,君主の放埒(ほうらつ)を規制しようとするのである。すなわち,もし君主が天の意志に反する言動をすれば,天はまず災を下して譴責する。君主が依然として失政を改めず,背徳をはたらけば,こんどは異を下して威嚇する。しかもなお悔い改めなければ,天はついにその国を滅ぼすに至る,という。このように自然の災異と君主の言動とを,相関的にとらえる論理は,自然と社会の秩序は対応一致する,との天人合一観を根底にもつ。そのさい自然現象の変調と人事との関係づけに使われたのは,陰陽五行説である。災異思想は春秋学を母胎としたが,のち易学派と交流したために,また讖緯説(しんいせつ)の影響をうけて,しだいに神秘的な予言へと傾斜した。
→天人相関説
執筆者:日原 利国
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