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牛腸茂雄 ごちょうしげお

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

牛腸茂雄
ごちょうしげお
(1947―1983)

写真家。新潟県生まれ。1965年(昭和40)桑沢デザイン研究所に入学して、大辻清司(きよじ)に師事し、写真作家となることを志す。68年に同研究所を卒業し、フリーランスの立場で活動しながら『日々』(関口正夫(1946― )との共著。1971)、『SELF AND OTHERS』(1977)、『見慣れた街の中で』(1981)の3冊の写真集を自費出版で刊行した。83年体調が悪化して帰郷するが、同年死去。その静謐(せいひつ)な作品世界は多くの人々の心をとらえ、さらに再評価の気運が高まりつつある。
 牛腸の写真家としての活動は、3歳のころに患(わずら)った胸椎(きょうつい)カリエスと切り離して考えることはできない。この難病により、身体に重いハンディキャップが残り、医者からは「20歳まで生きられないのではないか」といわれていたという。このような生の条件を背負い込むなかで、写真を通じて「生きていることの証(あかし)」を探ろうとする強い思いが彼のなかに高まっていたのである。
 それが具体的に結晶するのは、桑沢デザイン研究所時代に撮影したスナップ写真の総決算といえる『日々』を経て、牛腸にとっては2冊目の写真集となる『SELF AND OTHERS』においてである。この写真集で彼が試みたのは、家族、友人、日々の暮らしのなかで出会った人々のポートレートを注意深く配置、構成することで、タイトルにあるように、自己と他者との相互関係を見取り図のように描き出そうとすることだった。結果的に、この写真集におさめられた60枚の写真は、ハンディキャップをもつ彼自身の姿をストレートに写し出したセルフ・ポートレートを含めて、その静かな見かけにもかかわらず、見る者の心を揺さぶる不思議な力を発揮するものとなっている。『SELF AND OTHERS』は78年に日本写真協会新人賞を受賞し、牛腸の代表作となった。
 その後、彼は時間を惜しむように、すぐに次の仕事に取りかかった。3冊目の『見慣れた街の中で』は『SELF AND OTHERS』とは対照的な写真集である。前作のモノクローム写真によるきっちりと整った画面構成は、都市のストリート・シーンを切り取った曖昧(あいまい)で不確実なカラー写真に置き換えられた。そこでは、むしろ牛腸は「見慣れた街」をかすめて通り過ぎていく透明な視線となることに徹しているようにみえる。写真家の存在を消し去ることで、かえって1980年代初頭の街のざわめきや空気がいきいきととらえられているのである。
 1983年に36歳で亡くなったあとになって、ようやく本格的な再評価の試みが起こってきた。92年(平成4)に写真誌『デジャ=ヴュ』が「牛腸茂雄特集」を組み、それをきっかけに『SELF AND OTHERS』も94年に新装版で復刻された。また2001年には佐藤真(1957―2007)監督による、「牛腸茂雄のまなざし」をテーマとするドキュメンタリー映画『SELF AND OTHERS』が公開され、大きな反響をよんだ。[飯沢耕太郎]
『『SELF AND OTHERS』(新装判、1994・未来社) ▽「牛腸茂雄特集」(『デジャ=ヴュ』No.8・1992・フォト・プラネット) ▽津田基・三浦和人編『幼年の「時間(とき)」』(1995・Mole) ▽飯沢耕太郎著『私写真論』(2000・筑摩書房) ▽佐藤真著『映画が始まるところ』(2002・凱風社)』

出典|小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について | 情報 凡例

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